赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

76.偽物姫が変えたもの。

 寵妃のお仕事を予定より早く切り上げ、どこに行くのかと思えば連れて行かれたのはセルヴィス様の部屋だった。
 肩を抱かれ今から取り込み中だ、なんて誤解されまくりそうな人払いをした後、部屋に隠されていたドアから出て狭く暗い道を歩き続けている。

「どこに向かっているのですか?」

 重い沈黙に耐えかねて尋ねると、

「……本来なら君を関わらせたくはなかった」

 問い掛けから外れた言葉が返って来た。

「ここから先に関われば、君は後悔するかもしれない」

「後悔、ですか?」

「できるなら、君には綺麗なものだけを見て、誰にも脅かされることなく、ただ平穏を享受して欲しい……と思う」

 多分、これが引き返す最後のチャンスなのだろう。
 でも。

「陛下がただ可愛く可憐な花を愛でることをご所望なら、私は契約妃(寵妃の座)を辞退せねばなりませんね」

 私は暴君王女らしく不遜に笑う。

「そんなつまらない生き方、私には向いてませんわ。私を誰だとお思いですか?」

 クローゼアを出た時から私の心は決まっている。

「どうぞ、私を巻き込んでください。"悪逆非道な冷酷皇帝の隣に並ぶに相応しい暴君王女"をご覧にいれますわ」

 イザベラ(お姉様)がこれから生きていく場所を守れるのなら、なんだってやる、と。

「……そうだな。俺がどう隠そうと、きっと君は自力で辿り着く。回りくどいのは苦手だ。共同戦線と行こうか、イザベラ」

 イザベラ。
 そう呼ばれた瞬間、私の背筋が伸び思考がクリアになる。
 そう、今の私は暴君王女(イザベラ)なのだ。

「ええ、どこへなりとお供します」

 その名(第一王女の責務)を背負い、私は了承を告げた。

< 151 / 182 >

この作品をシェア

pagetop