赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

79.偽物姫と再会。

 隠れ鬼。
 プレイヤーは鬼に見つからないように、制限時間の間隠れながら逃げ惑い、鬼はプレイヤーを狩る単純なゲームだ。
 そして現在、私はクローゼアの王城に隠れている。
 夜風で靡く髪を耳にかけながら、私は懐かしい空気を吸い込む。

(生きてもう一度この地を踏めるとは思わなかった)

 見上げた城は18歳まで暮らした場所なのに、クローゼアを出て帝国で過ごした数ヶ月が私の中で濃く色づき過ぎてなんだか知らない場所に紛れ込んだみたいだ。
 エリックからの侵略計画を聞いた後、私はこれから先のことも含めてセルヴィス様と話し合った。
 事態は急を要するけれど、正規ルートで対応したところでクローゼア王がまともに対処できるはずもない。
 だから、勝手に動かせてもらうことにした。
 クローゼア王を討ち取るための復讐劇も。
 その後のクローゼアへの侵略も。
 まだ起きていないのだから、物語を乗っ取って筋書きを変えてしまえばいい。

「悲劇なんて起こさせないわ」

 絶対にできる、と言い聞かせながら私はふわりと真っ黒なローブを羽織る。

「ふふっ、ブカブカ。……セルヴィス様の匂いがする」

 王城まで送り届け手を離す瞬間まで大丈夫だと私を気遣ってくれた心強い存在を思い浮かべ、よしと気合を入れた私は隠し通路を真っ黒な羽織りで駆け抜ける。

「大丈夫、きっと間に合う」

 だって、強力な助っ人を得た今の私は王城の片隅で一人膝を抱えて泣いていた無力な第二王女ではないのだから。

 慣れた道を通り、ドアの前に辿り着く。
 私がこの部屋を訪ねる時のノックは4回。

「"ダリア"」

 イザベラと決めている合言葉を唱えれば、中から静かに鍵が開いた。

「リィル」

 どうして、とつぶやき驚いたように丸くなった天色の瞳。
 指先についたインクと蜂蜜色の髪から香る甘めの香油の匂い。
 二度と会うことはないと思っていた大好きな私のお姉様イザベラ・カルーテ・ロンドライン。

「会いかった、ベラ」

 イザベラに思いっきり抱きついた私は、

「力を貸して欲しい。私達のクローゼアと帝国のために」

 イザベラが必要なの! と火急を告げた。

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