赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

81.偽物姫と我儘。

『あちらが来てくれるというのなら、盛大に迎え撃ちましょう』

 私の"お願い"を聞き入れてくれたイザベラは私の計画にいくつかの修正と提案を加え、協力を約束してくれた。
 クローゼア王への襲撃を本人に伏せたまま、舞台の中心に王城を選んだイザベラ。
 協力者の存在とこれから先のシナリオを暗号化したものをセルヴィス様の鷲に託した私は、それが空の彼方に消えるのを見届けてから時を確認する。
 名残惜しくイザベラの執務室のある方を見つめ、

「そろそろ私も行かなくちゃ」

 と独り言を漏らしながら、先程のやり取りに思いを馳せる。
 イザベラにリープ病である事を告げた。
 私に残された時間はもうほとんどないことも。

『許されるなら最期はリィルとして、生きたいの』

 イザベラの偽物である事は私にとって誇らしい事だった。
 私の存在意義だったといっても過言ではない。
 だけど、帝国で過ごすうち欲が出た。
 クローゼアの第二王女リィル・カルーテ・ロンドラインとして、私にも出来る事があるのではないか、と。
 そして、妹の我儘をイザベラは許してくれた。
 本当は心配で引き留めたかっただろうに、ぐっと堪えてあなたは言い出したら聞かないから、と送り出してくれたイザベラ。
 イザベラには感謝している。
 その思いに報いるためにもまずはやるべき事をやらないと、と歩き出した瞬間、心臓を掴まれるような痛みが身体を襲い壁に手をついた。
 セルヴィス様に分けて頂いた魔力が底をついたらしい。
 王城に忍び込んだついでに薬剤庫から取ってきたサーシャ先生の薬を一気に飲み干す。

「……お願いだから、あと少しだけもって頂戴」

 大丈夫と自分に言い聞かせ、痛みと動悸を抑えつけた私は、

「さて、そろそろもう一人の偽物姫に会いに行きましょうか」

 守備よく捕まえられていると良いけど、と考えながら指定した場所へと足を進めた。

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