赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

86.偽物姫の隠し事。

 あっという間にこの場は制圧され、ハリス大公並びにガメール公爵を縄で縛りあげた時だった。

「セルヴィス様! イザベラ様の指示のもと城内全ての人間の救命処置が終わりました」

 玉座の間に姿を現したのは側近のオスカーだった。

「ご無事で何よりです」

「そっちも無事そうで」

「ええ、滞りなく」

 頷いたオスカーは戦況と味方全員の無事を告げた。

「それにしても少し前のセルヴィス様なら考えられませんね。満月の夜に出歩くなんて」

 明るい月とセルヴィスを眺めたオスカーは感慨深く声をあげる。
 セルヴィスが幼少期からどれほど苦しんできたかを知っているオスカーとしては、彼がそこに立っているだけで、奇跡のような光景に見えた。

「ベラの薬のおかげだ。とはいえさすがに全員殺さず、はなかなか骨が折れた」

 返り血をぞんざいに拭ったセルヴィスは意識のないハリス大公に視線を落とし、

「まぁでも。ベラから"縛りがあった方が燃えるでしょ?"なんてあからさまな挑発されてはな? 応えてやりたくなるだろ」

 やってやったぜとばかりにニヤリと笑う。
 そんなセルヴィスを見ながら、

「本当負けず嫌いですね。いいようにイザベラ様の掌の上で転がされてるじゃないですか」

 まったく、とオスカーは呆れ顔を浮かべる。

「可愛い妻に転がされるなら悪くない」

 この後の話し合いを思えばちょっとでも心象をよくしておきたいと真剣に言い切るセルヴィスに、ああそう、とオスカーは追求することをやめた。
 側妃(人質)として帝国に渡ってから今日に至るまでイザベラは充分過ぎるほどその能力を示し、何より帝位に興味がなかったセルヴィスの意識を変えてみせた。
 セルヴィスがイザベラを正妃に望むなら、オスカーに異論はない。

「ああ、ここにいたのですね」

 そう言って顔を覗かせたのは、クローゼアの王族の装いをしたイザベラだった。
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