赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
21.偽物姫は関心を持たれる。
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静かな港町の夜に真っ黒な影が伸びる。
「に、逃げろっ」
「なんなんだ!?」
飛び交う言語はオゥルディ帝国で使われるものではなく、男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
が、ヒトの形をしていないそれはどこまでも追ってきて、決して逃してはくれない。
一人、また一人と追い詰められて、断末魔とともに仲間が視界から消える。
「ヒィィ!?」
ダンっという大きな音と共に、とうとう最後の一人も真っ黒なそれに追いつかれた。
仄暗い闇に二つの目が妖しく光る。
それは、圧倒的な力の差と恐怖心を感じさせるもので。
「化け……も……の」
吐き出された最後の言葉は、誰に届く事もなく闇の中に消えていった。
「流石ですね、セルヴィス様」
セルヴィスが剣を鞘に納めたタイミングで声がかかる。
「こちらの制圧も完了いたしました」
振り返ればオスカーがそこにおり、現状を報告した。
「まさか、帝国にまでアヘンが蔓延っているとは……」
早期に制圧できて本当に良かったですとほっとするオスカーに、
「先帝時代の負の遺産。まさに"呪い"だな」
淡々とした口調でセルヴィスは吐き捨てる。
「警戒を怠るな。今回で根絶やしにしろ」
「承知しました」
言われるまでもなくそのつもりだ。
アヘンにより内側から腐敗した国はいくつもある。見逃すことは到底できない。
「それにしても、よく見つけましたね。アヘンの密輸とそのアジトなんて」
「……俺の手柄ではない」
あれだけ手がかりを提示されたら、よほどの馬鹿でなければ気づく、とセルヴィスは先日のイザベラとのやり取りを振り返る。
『ヒントは私達の目の前にありました』
そう、彼女の提示した通りヒントはあったのだ。
"先帝の呪い"の影響で、観光客が減り閑散としている市場。
にも拘らず、満床に埋まる宿屋。
安すぎる海外製のシルク製品。
中毒症状を起こした人間の有意差。
そして、スイセンが原因では起きないはずの症状。
『陛下、黄色より赤い花の方が人々を魅了するとは思いませんか?』
極めつけは、明言は控えると言った彼女の問いかけ。
黄色の花がスイセンを指すのだとしたら、赤い花が指すものは、一体なんなのか?
スイセンを調べさせた時にまとめさせた報告書を読んでいたセルヴィスはすぐ答えにたどり着いた。
「アルカロイド系の毒。それは何もスイセンに限ったものではない」
赤い花。
それはアヘンの材料になるケシを指す。
依存性が高く、重症例では呼吸困難や精神崩壊を引き起こす。
中毒患者の男女差は、貿易関係の仕事に従事している人間は女性より男性が多く、アヘンの密売人と接触する可能性が高かったから。
男の嗜みとされたシガー文化もアヘンに手を出すハードルを下げていたのだろう。
商人や観光客が減って活気が失われていたカルディアの宿屋が満床だったのは、船入に合わせアヘンを買いに来ている人間が利用していたから。
安いシルクの存在はアヘン密輸の見返りで、国内に出回る時には関税をかけた正規の金額に引き上げ、差額は中抜きされていた。
おそらく彼女はそれを全て見抜いていた。その上で、明言を避けたのだ。
元敵国の人間の発言はこの国では響かない。にも拘らず、寵愛する側妃の進言を皇帝陛下が聞き入れたと家臣に不満を持たれたらアヘンへの対応が後手に回り、手遅れになるとイザベラは判断したのだ。
静かな港町の夜に真っ黒な影が伸びる。
「に、逃げろっ」
「なんなんだ!?」
飛び交う言語はオゥルディ帝国で使われるものではなく、男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
が、ヒトの形をしていないそれはどこまでも追ってきて、決して逃してはくれない。
一人、また一人と追い詰められて、断末魔とともに仲間が視界から消える。
「ヒィィ!?」
ダンっという大きな音と共に、とうとう最後の一人も真っ黒なそれに追いつかれた。
仄暗い闇に二つの目が妖しく光る。
それは、圧倒的な力の差と恐怖心を感じさせるもので。
「化け……も……の」
吐き出された最後の言葉は、誰に届く事もなく闇の中に消えていった。
「流石ですね、セルヴィス様」
セルヴィスが剣を鞘に納めたタイミングで声がかかる。
「こちらの制圧も完了いたしました」
振り返ればオスカーがそこにおり、現状を報告した。
「まさか、帝国にまでアヘンが蔓延っているとは……」
早期に制圧できて本当に良かったですとほっとするオスカーに、
「先帝時代の負の遺産。まさに"呪い"だな」
淡々とした口調でセルヴィスは吐き捨てる。
「警戒を怠るな。今回で根絶やしにしろ」
「承知しました」
言われるまでもなくそのつもりだ。
アヘンにより内側から腐敗した国はいくつもある。見逃すことは到底できない。
「それにしても、よく見つけましたね。アヘンの密輸とそのアジトなんて」
「……俺の手柄ではない」
あれだけ手がかりを提示されたら、よほどの馬鹿でなければ気づく、とセルヴィスは先日のイザベラとのやり取りを振り返る。
『ヒントは私達の目の前にありました』
そう、彼女の提示した通りヒントはあったのだ。
"先帝の呪い"の影響で、観光客が減り閑散としている市場。
にも拘らず、満床に埋まる宿屋。
安すぎる海外製のシルク製品。
中毒症状を起こした人間の有意差。
そして、スイセンが原因では起きないはずの症状。
『陛下、黄色より赤い花の方が人々を魅了するとは思いませんか?』
極めつけは、明言は控えると言った彼女の問いかけ。
黄色の花がスイセンを指すのだとしたら、赤い花が指すものは、一体なんなのか?
スイセンを調べさせた時にまとめさせた報告書を読んでいたセルヴィスはすぐ答えにたどり着いた。
「アルカロイド系の毒。それは何もスイセンに限ったものではない」
赤い花。
それはアヘンの材料になるケシを指す。
依存性が高く、重症例では呼吸困難や精神崩壊を引き起こす。
中毒患者の男女差は、貿易関係の仕事に従事している人間は女性より男性が多く、アヘンの密売人と接触する可能性が高かったから。
男の嗜みとされたシガー文化もアヘンに手を出すハードルを下げていたのだろう。
商人や観光客が減って活気が失われていたカルディアの宿屋が満床だったのは、船入に合わせアヘンを買いに来ている人間が利用していたから。
安いシルクの存在はアヘン密輸の見返りで、国内に出回る時には関税をかけた正規の金額に引き上げ、差額は中抜きされていた。
おそらく彼女はそれを全て見抜いていた。その上で、明言を避けたのだ。
元敵国の人間の発言はこの国では響かない。にも拘らず、寵愛する側妃の進言を皇帝陛下が聞き入れたと家臣に不満を持たれたらアヘンへの対応が後手に回り、手遅れになるとイザベラは判断したのだ。