赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

41.偽物姫と調査依頼。

 監視付きとはいえ、一人で帝国内を歩く事になるとは思わなかった、と地図を片手に私は大きなため息をつく。
 事の発端は、早朝セルヴィス様の第一秘書官であるオスカーが訪ねてきたこと。
 普段後宮に足を踏み入れる事のない彼が、突然小柄な男性を連れてやってきた。
 オスカーが差し出したのは一枚の地図。そこにはいくつか印が入っていた。

「見回り調査、ですか?」

 依頼されたのは、カルディア同様に市場に毒物が食用のモノに紛れていないか調べること。
 確かに私なら見分けられるけれど、この国にだって薬師も医師もいるでしょうし、わざわざ私が出向く必要はない。
 そもそも人質を野放しにするなんて、と訝しむ私に、

「失礼ながら、今イザベラ妃はお暇でしょう?」

 容赦なくそう言ったオスカーは、

「明細書です」

 と、にこやかな笑顔とともに私がここで生活するためにかかっている費用が記載された書類を寄越す。

「囮として貴女を養う分には危険手当込みで妥当な経費だと思うのですが、ここ数週間は碌にお仕事されていませんので」

 うちには穀潰しを養う余裕ないんです、と大袈裟に肩をすくめたオスカー。
 つまり、働けという事らしい。

「聡明なイザベラ妃ならご自身のお立場をよくご理解頂けていることかと。護衛としてうちの隠密をつけさせて頂きますので、ご心配なく」

 そう言って連れて来た小柄な男、ギルを紹介した。
 私の心配というよりも、見張っているから妙な気は起こすなよ、という事だろう。

「随分、勝手な言い分ね。私の知識を搾取しようだなんて」

 私にだって言い分はあった。
 この明細書の金額が妥当なのか精査させなさいよ、とか。
 そもそも私が寵妃()役をしていないのは、セルヴィス様が呼ばないからじゃない、とか。
 あった、けど。
 セルヴィス様に呼ばれなくてほっとしていた自分がいるのも確かなので。

「いいわ、乗ってあげる」

 一人で悶々としているよりは、多少なりと気分転換になるだろう、と私はオスカーの依頼を引き受けた。
 地図を受け取った私にオスカーはカルディアの時に使用した見目を変える腕輪を寄越し、

「人を付けます。まずはこの場所で落ち合ってください」

 そう言ってこれからやることを指示した。

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