赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
42.偽物姫は歩み寄る。
促されて店を出たものの、と私は隣を歩くセルヴィス様をチラ見する。
店内でお互いを見つけて以降目も合わない。
……沈黙が、重い。
「あ、あのっ! ……セス」
沈黙に耐えられなかったのは私の方で。
わざわざ変装している彼に"陛下"と話しかけるわけにもいかず。
かといって、どう呼べとも指示されなかったからカルディアと同じ呼び方をしてしまった私に落ちてきたのは、重い重いため息だった。
「……っち」
その上、舌打ち。
ビクッと肩を震わせた私を見返したセルヴィス様はガシガシと乱暴に自分の髪をかくと、
「……オスカーめぇ」
恨めしげな声でそう言って、またため息をついた。
「リーリィ。君はオスカーになんて言われて送り込まれたんだ?」
と尋ねられた。
「えっと、市場調査的な?」
経緯をかいつまんで話すと、セルヴィス様から再度ため息が漏れた。
「あの、セスのお仕事の邪魔でしたら別行動でも」
護衛もついているみたいですし、と言った私に、
「ギルならもう帰ったぞ」
さっきまであの辺にいた、と指をさされるが正直全然気づかなかった。
っていうか、護衛対象を置いて帰るってどういう事!?
疑問符だらけの私に手を差し出したセルヴィス様は、
「……リーリィが嫌でなければ、一緒に行動してもらえると」
こんなところに置いていくわけにはいかないし、とやや言い訳みたいな言い方。
視線はそらされたままだけど、それは私に対して怒っているとか気まずい感じではなくて。
どうすれば私を傷つけずに済むのか分からずに困っているみたいで。
セルヴィス様はいつも通り、とても優しくて。
「……っふ、ふふ」
耐えきれず、クスクスと笑い出した私をいつもとは違う色味の優しい瞳が困惑したように見返す。
「どうした?」
「……いえ、ただ」
まるで、物陰に隠れてこっちを伺う子犬みたいで、可愛いなんて。
ビジネス暴君を全面に出して強い皇帝陛下を演じているこの人には言えないなと言葉を濁す。
突き放すために傷つけたのは私の方なのに。
こうして気にかけてくれるのが嬉しいなんて、自分勝手過ぎるんだけど。
「リーリィは、商人セスの妻でしょう?」
どこへでも連れて行ってください、とセルヴィス様の手を取る。
驚いたように一瞬目を見開いたセルヴィス様は、少しだけ微笑んで、
「ああ、分かった」
とだけ言うと、そのまま私の手を引いて歩き始めた。
繋いだ手が温かくて、私の歩幅に合わせてくれるセルヴィス様が優しくて。
幸せ、で。
この国に来て苦しかった夜に何度も寄り添ってくれた狼が彼なのだと知った今、ただ彼に触れただけで私の心臓は高鳴った。
自分では、どうしようもないほどに。
(リーリィはイザベラの偽物じゃ、ないから)
宮廷に戻るまでの僅かな時間だけだから。
自分にそんな言い訳を用意して、私は少しだけこの手の温かさに甘えることにした。
店内でお互いを見つけて以降目も合わない。
……沈黙が、重い。
「あ、あのっ! ……セス」
沈黙に耐えられなかったのは私の方で。
わざわざ変装している彼に"陛下"と話しかけるわけにもいかず。
かといって、どう呼べとも指示されなかったからカルディアと同じ呼び方をしてしまった私に落ちてきたのは、重い重いため息だった。
「……っち」
その上、舌打ち。
ビクッと肩を震わせた私を見返したセルヴィス様はガシガシと乱暴に自分の髪をかくと、
「……オスカーめぇ」
恨めしげな声でそう言って、またため息をついた。
「リーリィ。君はオスカーになんて言われて送り込まれたんだ?」
と尋ねられた。
「えっと、市場調査的な?」
経緯をかいつまんで話すと、セルヴィス様から再度ため息が漏れた。
「あの、セスのお仕事の邪魔でしたら別行動でも」
護衛もついているみたいですし、と言った私に、
「ギルならもう帰ったぞ」
さっきまであの辺にいた、と指をさされるが正直全然気づかなかった。
っていうか、護衛対象を置いて帰るってどういう事!?
疑問符だらけの私に手を差し出したセルヴィス様は、
「……リーリィが嫌でなければ、一緒に行動してもらえると」
こんなところに置いていくわけにはいかないし、とやや言い訳みたいな言い方。
視線はそらされたままだけど、それは私に対して怒っているとか気まずい感じではなくて。
どうすれば私を傷つけずに済むのか分からずに困っているみたいで。
セルヴィス様はいつも通り、とても優しくて。
「……っふ、ふふ」
耐えきれず、クスクスと笑い出した私をいつもとは違う色味の優しい瞳が困惑したように見返す。
「どうした?」
「……いえ、ただ」
まるで、物陰に隠れてこっちを伺う子犬みたいで、可愛いなんて。
ビジネス暴君を全面に出して強い皇帝陛下を演じているこの人には言えないなと言葉を濁す。
突き放すために傷つけたのは私の方なのに。
こうして気にかけてくれるのが嬉しいなんて、自分勝手過ぎるんだけど。
「リーリィは、商人セスの妻でしょう?」
どこへでも連れて行ってください、とセルヴィス様の手を取る。
驚いたように一瞬目を見開いたセルヴィス様は、少しだけ微笑んで、
「ああ、分かった」
とだけ言うと、そのまま私の手を引いて歩き始めた。
繋いだ手が温かくて、私の歩幅に合わせてくれるセルヴィス様が優しくて。
幸せ、で。
この国に来て苦しかった夜に何度も寄り添ってくれた狼が彼なのだと知った今、ただ彼に触れただけで私の心臓は高鳴った。
自分では、どうしようもないほどに。
(リーリィはイザベラの偽物じゃ、ないから)
宮廷に戻るまでの僅かな時間だけだから。
自分にそんな言い訳を用意して、私は少しだけこの手の温かさに甘えることにした。