赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
44.偽物姫と宣戦布告。
「……ここって、元々研究施設だったりします?」
一通り見て回ったあと、私はセルヴィス様にそう尋ねた。
防音魔法を周囲に張ったあと、
「元はそうだった、と聞いている。ここの持ち主がいなくなり、元持ち主の意向でそのまま植物園にしたらしい」
セルヴィス様が答える。
獣人は高魔力故に高度な魔法が使えると聞いたことはあるけれど、無詠唱なんてと驚く私に、
「こっちは内密に」
と揶揄うように笑う。
ナチュラルに国家機密暴露して囲い込むのはやめて欲しい、と思ったけれど話しが進まないので今回はスルーする。
「そのまま……って本当にそのまま過ぎではないですか?」
「ここは俺が皇帝陛下を引き受ける条件として残させた」
セルヴィス様は話を続ける。
「見た通り人が来なくて赤字経営。オスカーに毎回お小言をもらいまくって正直困っている」
本当に困っているのだろう。
狼の耳が出ていたらシュンとなっていそうだ。
「専門家に管理を任せないのですか?」
「植物の世話自体は任せている。が、経営や管理となると、な」
任せられる相手がいなくて、とセルヴィスは首を振る。
「誰かに委託してしまえばどうしたって利益を優先するだろ?」
と言ったセルヴィス様の横顔が寂しそうで、胸が苦しくなる。
「ここは誰か、大事な方のもの……なのですか?」
「ミリア……先代の毒牙にかかった側妃。俺の恩人で、君に与えた温室の元の持ち主だよ」
私は沢山書き込まれた図鑑を思い出し、納得する。
すごく研究熱心な方なのだろうとは思っていたけれど、あの図鑑には収まりきらないほどの熱量がこの植物園なのだろう。
「俺はここにあるものを何一つ失いたくないんだ」
もうこれしか残っていないから、と言ったセルヴィス様の表情は悲しげで、後悔の色が浮かんでいた。
その顔には覚えがあって、胸の奥が苦しくなる。
失ったものは戻らないし、過去は抱えて生きていくしかない。
だから、そのためには"心の支え"が必要で。
セルヴィス様にとってはこの植物園がそうなのだろう。
「なら、やはり誰かに託すべきですわ」
何一つ失わない方法で、と私はセルヴィス様に告げる。
「道楽で維持するには、ここは少々大き過ぎます。維持費だけでも馬鹿にならない。だから、付加価値をつけて、ある程度利益も生みましょう!」
私の提案にゆっくり目を瞬かせたセルヴィス様は、
「可能……なのか?」
と尋ねる。
「やり方次第かと」
コクンと頷いた私は、指を5本立てる。
「まぁでもこれは寵妃契約外のお話。コンサルタント料は利益の5割、でどうですか?」
賠償金と相殺ということでと交渉する私に、
「高い。それに中身を聞かなければ決められないな」
ニヤっと口角を上げ、楽しげに応戦してくるセルヴィス様。
「あら、皇帝陛下肝入りの事業でしょう? 安すぎるくらいですわ。まぁ、でもサービスとして4割でいかがです?」
「利益がでなければそちらに損失はないのだろう? アイデア料ならせいぜい2割だな」
「あらあら、私のアイデアがなければ詰みかけなのに、随分と強気ですわね」
私は暴君王女っぽさを意識しつつ、真っ向からセルヴィス様を捉える。
互いの視線が絡み、同時に吹き出して笑う。
「ふふ、まぁコンサルタント料は置いておいて、ここのこと真面目に考えてみてもいいですか?」
ここは手放しちゃダメですよ、と言った私の髪を掬い、
「ああ、頼む」
そこキスを落としたセルヴィス様はとても綺麗に笑った。
「い、いま演技、いりませんからぁ!!」
セルヴィス様の色香に当てられそう叫んだ私に、
「絶対犬派に鞍替えさせてみせるから覚悟しとけよ?」
と耳元で宣戦布告したセルヴィス様は全てを喰らい尽くす狼らしい目をしていた。
一通り見て回ったあと、私はセルヴィス様にそう尋ねた。
防音魔法を周囲に張ったあと、
「元はそうだった、と聞いている。ここの持ち主がいなくなり、元持ち主の意向でそのまま植物園にしたらしい」
セルヴィス様が答える。
獣人は高魔力故に高度な魔法が使えると聞いたことはあるけれど、無詠唱なんてと驚く私に、
「こっちは内密に」
と揶揄うように笑う。
ナチュラルに国家機密暴露して囲い込むのはやめて欲しい、と思ったけれど話しが進まないので今回はスルーする。
「そのまま……って本当にそのまま過ぎではないですか?」
「ここは俺が皇帝陛下を引き受ける条件として残させた」
セルヴィス様は話を続ける。
「見た通り人が来なくて赤字経営。オスカーに毎回お小言をもらいまくって正直困っている」
本当に困っているのだろう。
狼の耳が出ていたらシュンとなっていそうだ。
「専門家に管理を任せないのですか?」
「植物の世話自体は任せている。が、経営や管理となると、な」
任せられる相手がいなくて、とセルヴィスは首を振る。
「誰かに委託してしまえばどうしたって利益を優先するだろ?」
と言ったセルヴィス様の横顔が寂しそうで、胸が苦しくなる。
「ここは誰か、大事な方のもの……なのですか?」
「ミリア……先代の毒牙にかかった側妃。俺の恩人で、君に与えた温室の元の持ち主だよ」
私は沢山書き込まれた図鑑を思い出し、納得する。
すごく研究熱心な方なのだろうとは思っていたけれど、あの図鑑には収まりきらないほどの熱量がこの植物園なのだろう。
「俺はここにあるものを何一つ失いたくないんだ」
もうこれしか残っていないから、と言ったセルヴィス様の表情は悲しげで、後悔の色が浮かんでいた。
その顔には覚えがあって、胸の奥が苦しくなる。
失ったものは戻らないし、過去は抱えて生きていくしかない。
だから、そのためには"心の支え"が必要で。
セルヴィス様にとってはこの植物園がそうなのだろう。
「なら、やはり誰かに託すべきですわ」
何一つ失わない方法で、と私はセルヴィス様に告げる。
「道楽で維持するには、ここは少々大き過ぎます。維持費だけでも馬鹿にならない。だから、付加価値をつけて、ある程度利益も生みましょう!」
私の提案にゆっくり目を瞬かせたセルヴィス様は、
「可能……なのか?」
と尋ねる。
「やり方次第かと」
コクンと頷いた私は、指を5本立てる。
「まぁでもこれは寵妃契約外のお話。コンサルタント料は利益の5割、でどうですか?」
賠償金と相殺ということでと交渉する私に、
「高い。それに中身を聞かなければ決められないな」
ニヤっと口角を上げ、楽しげに応戦してくるセルヴィス様。
「あら、皇帝陛下肝入りの事業でしょう? 安すぎるくらいですわ。まぁ、でもサービスとして4割でいかがです?」
「利益がでなければそちらに損失はないのだろう? アイデア料ならせいぜい2割だな」
「あらあら、私のアイデアがなければ詰みかけなのに、随分と強気ですわね」
私は暴君王女っぽさを意識しつつ、真っ向からセルヴィス様を捉える。
互いの視線が絡み、同時に吹き出して笑う。
「ふふ、まぁコンサルタント料は置いておいて、ここのこと真面目に考えてみてもいいですか?」
ここは手放しちゃダメですよ、と言った私の髪を掬い、
「ああ、頼む」
そこキスを落としたセルヴィス様はとても綺麗に笑った。
「い、いま演技、いりませんからぁ!!」
セルヴィス様の色香に当てられそう叫んだ私に、
「絶対犬派に鞍替えさせてみせるから覚悟しとけよ?」
と耳元で宣戦布告したセルヴィス様は全てを喰らい尽くす狼らしい目をしていた。