叶わぬロマンティックに終止符を
prologue
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これを運命と呼ばずして、なんと呼ぶのか。
それ以上の名詞を当てはめることはできなかった。
「柊……?」
わたしの中に居座り続ける恋心が、同じプロジェクトのメンバーとして現れるなんて。
目を丸くして驚くわたしとは正反対で、変わらない涼やかな目元を細めて、あの頃わたしに向けなかった作り物みたいな笑顔を向けられた。
「……名取さん、お疲れさまです」
あくまで他人のように、あの頃を消すように振る舞った彼は一歩、また一歩と近づいてきた。名取さん、なんてそんなふうにわたしのこと呼んだことなかったくせに。はじめて話した日は、「かなんちゃん」なんて言って軽薄に揶揄ってきたくせに。
目の前、見上げないと届かない視線が絡む。手が伸びてきてわたしの髪を耳にかけながら、唇の端を緩やかに上げた。わたしの耳に控えめに鎮座する白い花のピアスの意味に、気づいただろうか。
「……叶南」
ちいさくわたしの名前を呟いた。他人行儀はやっぱり作り物であり表の姿。わたしだけがあなたに気づいているわけではないのだと、それだけのことで嬉しさが心に迷い込む。
柊の声が響く、大会議室。わたしと柊だけの空間で、まるで、あの頃に戻ったみたい。あの夏の教室を思い出した。
……のに、ホッとしたのも束の間。淡い期待は早々に打ち砕かれる。
「もう、俺のこと好きになんないでね。社内の人間には手出さないようにしてんの」
わたしの知らないひんやりした声は、運命という漢字二文字を真っ向から否定した。なんとも失礼な言葉を引っ付けて。
叶わなかった恋心は、"再会"というロマンティックを携えたとしても、もう叶うことはないのだと思う。
あの日、約束の場所、約束の時間に来てくれなかったから。この恋に終止符を打たなければならなかった。
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