叶わぬロマンティックに終止符を
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会議で自己紹介をしていた柔らかな声は、あの頃、誰もが憧れていたものと全然変わっていなかった。その場に立って話をする、1分にも満たないその一瞬だけで人を惹きつけるのは天賦の才なのだろう。……いや、柊のことだし、これも努力の賜物なのかもしれない。人には見せない努力を惜しまないひとだ。
「はじめまして、のかたも多いですよね。先月に中途入社しました、経営企画部の日永柊と申します。早速このようなお仕事を頂けて光栄です。みなさんのお力を借りつつ、プロジェクトを成功へ導ければと思います」
その場で立ち上がって話す姿に拍手が送られた。流れるような話しかたは、捻ったりもしていないし面白さを加えているわけではないのに、聞き入ってしまう。高校時代からずっと変わらない。
機材トラブルなどもなく、第一回のミーティングは無事に幕を閉じた。
わたし自身、他部署も集まったプロジェクトに参加するのは初めてだった。今回、産休に入った先輩の代わりにアサインされたのだけれど、ここできちんと結果を出して他の部や支社へのキャリアアップができれば、と少しは考えていた。