叶わぬロマンティックに終止符を
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都合の良い夢かと思った。あの日、情けなくも逃げてしまった初恋の相手が、転職先に勤めているなんて思いもしなかった。
「日永さん、前職が外資の金融コンサルって本当ですかぁ?」
「大学もアメリカの、なんたら大学?ってところ卒業してるの〜?」
国内クレジットカード最大手、株式会社classに入社して初日。与えられたデスクで書類の整理をしつつ研修スケジュールを確認していればあっという間に女性社員に囲まれた。
自ら言ったわけではないのに、噂は流れるのが早いもので。履歴書を提出している以上、会社に情報は握られているし、隠すことでもない。
「本当です」
「えー! かっこいい!」
「彼女いるんですかぁ?」
後付けされたであろう長いまつ毛に、シーリングライトに反射するラメ。規則的にカールされた長い髪。極め付きは上目遣いにシロップ原液のような甘い声。否定はしないが、得意ではない人種だと一瞬でわかる。
角を立てたくはないので、にこやかに、いつも通り大人の対応で乗り切る。