叶わぬロマンティックに終止符を
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◻︎
22時。かち、かちかち、とキーボードの音だけが執務室に乾いたリズムを刻んでいた。
"恋も仕事も、クレジットカードも!
たのしくかわいく、上手でなくっちゃ!”
今回の新規プロジェクトのキャッチコピーは「こ」にて辞書登録済みだ。
すでにわたし以外のパソコンは漆黒に染まってシャットダウンがされている。かちかち、時々エンター。紛れもなく、わたしが繰り出した音だった。
22時。この空間にぽやっと光るのはわたしのデスクトップのみで、ガラス越しに見えるオフィスビルも明かりは少なくなっていた。
「もうこんな時間かあ」
ひとりごとは誰に届くでもなく消えてゆく。普段から、わたしの言葉はひとりごとのようなもので、誰も掬ってはくれない。
明日もきっと退勤時間について、朝から怒号を浴びせられるのだろう。
──いつまで続くのかな。
名取叶南、新卒でクレジットカード会社に入社して4年目。初期配属で現所属の部署、営業推進部に配属されてから、異動の話は一度もない。年に一回、キャリアの希望はとられるけれど、形式的なもので意味をなしてはいない。期待するだけ無駄だと悟ったのが二年目の冬。
同期がひとりだけ同じ部にいて、励まし合えるという環境だけが救いだった。