幼なじみの過保護愛 -星のかけらは純愛のしるし-
「咲」
少し大きめの声で名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
弾かれたように視線を上げると、顔を覗き込んでくる黒い目と目が合う。
「……光希くん」
池田 咲の幼なじみである本庄 光希の瞳は、新月の夜空のようにいつも静かで穏やかだ。だがそれと同時に、常に不安の色も帯びているように思う。
心の底から咲を心配している目だ。その証拠に、彼の唇からも咲を案じる台詞が零れる。
「大丈夫か? もしかして、調子が悪いのか?」
百八十センチを超える高身長の光希とカフェチェアに座った咲は、そのままだと顔の距離が少し遠い。ひらいた空間を縮めるように身を屈めた光希が、すらりと細長い指先を伸ばして咲の頭を撫でつつ、さらにじっくりと観察するよう左目を覗き込んでくる。
「っ……」
艶やかな黒い前髪の隙間から見つめられると、どきりと心臓が跳ねる。
同じ年齢で、家が二軒隣で、母親同士の仲が良かったことから、物心がついたときからいつも傍にいるという腐れ縁。二十年以上傍にいればこの見目麗しい顔立ちに目が慣れてもおかしくないずなのに、真剣な表情を向けられると未だに戸惑ってしまう。
というより、年齢を重ねれば重ねるほど、視線が合うことに心許なさを覚えていく気がしている。
「う、ううん。平気だよ」
幼なじみの光希相手に、こんなにも緊張していると知られるのは恥ずかしい。だから密かに抱いている淡い感情を誤魔化すように、照れ笑いを浮かべてひらひらと手を振る。
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