ひまわりみたいなあなたにもう一度恋をする~再会したのは元不良の同級生~
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――十年経った今でも忘れられない人がいる。
(緊張するなあ)
着慣れないネイビーのセットアップスーツを身につけた美織は少しでも緊張を和らげようとふうっと深く息を吐いた。
人事担当がミーティングルームを出て行ってから早十分。
待てども暮らせど、すりガラスでできた扉の向こうから誰かがやってくる気配はない。
整然と並んだグレーのテーブルと椅子ばかりを所在なく見つめるのにも、いさかか飽きてしまった。
手持ち無沙汰になった美織は左手にある窓へ目を向けた。
六月下旬の不安定な天気のせいか、空にはうっすら雲がかかっている。
(凄い眺めね。ちょっと怖いくらい)
眼下に広がる光景に対して、感嘆よりも恐怖が先行する。
都心にある高層ビルの二十五階から三十階が青柳商事の東京支社があるフロアだ。
(青柳商事の人達はこういうところで働いているんだ)
ビジネスの中心地は都心の一等地でもある。窓の外には見渡す限り、同じような高層ビルがいくつも立ち並んでいた。
さすが日本でも十本の指に入る指折りの総合商社だ。半年前まで事務員として働いていた食品メーカーの工場とは雲泥の差だ。
少なくともここには、作業着姿で談笑するおじさんも、ひたすらおまんじゅうを勧めてくるお人好しのおばちゃんもいなさそう。
(あれはあれでよかったけど)
思わず笑みがこぼれそうになり、慌てて緩んでいた口もとに力を入れた。
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