わかっていますよ旦那さま~私たちWIN-WINの夫婦ですから~

プロローグ

 おかしいと思った。
 そう納得しつつ、どうすればいいのかと必死に頭を働かせる。

「どうする、依都(えと)。俺の手を取るか、それともまだ悪あがきを続けるか」

 すっかり品行方正の皮を脱ぎ捨てた宇和島(うわじま)さんが、「結果は見えているけどな」とさらに私を追い詰める。

 数回私を見かけてほんの少し話をしただけで惹かれたなんて、あるわけがない。この人は仕事を有利に進めるために、私に結婚を申し込んだにすぎない。

 べつに、腹立たしくはない。
 もとから彼の求婚を信じていたわけでもないし、恋愛感情も抱いていない。

 それよりもこの結婚に応じれば、私たち家族が代々営んできた老舗旅館【糸貫庵(いとぬきあん)】を今後も守ってもらえる。私の願いは、それが唯一ですべてだ。

 おそらく彼は、仕事が上手くいった後に別れを切りだすつもりなのだろう。

 悲願達成のためなら、私だって一時的に結婚をするくらいなんてことはない。なんなら最後は、こちらから離婚を切りだして悪者になったってかまわない。

 さあ、旦那さま。
 お互いにとってWIN-WINの結果になるように、協力し合いましょう。
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