わかっていますよ旦那さま~私たちWIN-WINの夫婦ですから~

役割を全うしてみせます

 結婚して初めての夏が過ぎても、私の生活はほとんど変わりない。

 休日は彼と共に過ごし、平日は習い事に通う。
 たまにふたりで旅行に行ったり、彼のご両親に誘われて食事をしたりすることもある。そんなときは、いかにも仲の良い夫婦だと演じてみせる。

 光毅さんは最近新しく始まったプロジェクトが海外の企業も絡む大規模なもののため、これまでよりも多忙を極めている。海外出張も頻繁に入り、家を空ける日が多い。

 もしかしたら、楢村さんが秘書として同行しているかもしれない。そんな想像するだけでモヤモヤしたり落ち込んだり気持ちの乱高下が激しい。

 私をイギリスに呼び寄せたとき、彼は仕事とプライベートをきっちり線引きしていた。もちろん、私と合流後の費用はすべて自費で賄っている。
 そんな彼だからこそ、たとえ楢村さんを伴う出張だったとしても公私混同はしないはずだと必死に信じこもうと自身に暗示をかける。

 けれど、帰宅して数日ぶりに顔を合わせた彼が甘すぎる振る舞いをすれば、逆に疚しいことがあるからなのかと勘繰ってしまう。

 どこでなにをしていようがかまわないと彼に言ったのは私で、疑ったり咎めたりする資格がないのはわかっている。
 
 どんどん嫉妬深くなっていく自分が、怖くてたまらない。
 それがどれほど辛くても、逃げ出すわけにはいかない。
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