わかっていますよ旦那さま~私たちWIN-WINの夫婦ですから~

エピローグ

 光毅さんと結婚して、二年近くが経った。

 木々はすっかり赤く染まり、糸貫庵のある温泉街はこの時季ならでは美しい景色が広がっている。
 実家で暮らしていた頃は当たり前だったこの光景に、離れて暮らす今は感動を覚えている。

「ようこそお越しくださいました。お荷物をお預かりしますね」

 再開発を進めていたこの地域は、施設を段階的に開業してきた。

 先日ついに、糸貫庵とその周辺がリニューアルオープンをし、温泉街はこれですべての施設が営業を始めている。

 休日を利用して、光毅さんと共に利用客として温泉街を訪れている。一泊の滞在を予定しており、彼は糸貫庵に予約を入れようとしてくれた。

 それを断わったのは私の方だ。
 糸貫庵は、主に外国人観光客を受け入れる旅館として生まれ変わった。もちろん国内の旅行客も宿泊は可能だ。
 予想以上に人気を博し、旅館は連日満室が続いているのだという。
 光毅さんの立場を利用すれば、一室開けてもらうのも可能だろう。けれど、そういう手段を使うのはあまり好ましくない。
 そこで今回は、温泉街の象徴にもなっている入口近くのホテルに予約を入れた。

 地域の景観を損ねないように、横に広く造られたこのホテルは五階建てになっている。今夜はその最上階の部屋に泊る予定だ。

 部屋に入ってすぐ、窓辺に足を進めた。
 思った通り、ここからは温泉街を一望できる。ざっと視線を巡らせて、糸貫庵を見つけた途端に心が弾んだ。
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