わかっていますよ旦那さま~私たちWIN-WINの夫婦ですから~
素直にだまされてみせます
「え? 由奈がケガをした?」
十月も下旬になり、朝晩は一気に肌寒くなってきた。仕事を終えて駅に向かう歩調は、自然と速くなる。人に溢れた都会は歩きづらさは、関東の片田舎から上京して四年以上が経つのに慣れる気がしない。
一回の乗り換えを挟んだ後に自宅の最寄り駅に着き、歩くこと数分。ひとり暮らしのマンションが見えてくると、無性にほっとする。
玄関の鍵を開けて中に入り、灯りをつけたタイミングでスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
電話をかけてきたのは、幼馴染の西脇大和だ。
『そうなんだよ』
折に触れてなにかと連絡をくれる彼のこと。いつものように私の実家の旅館や、離れて暮らす家族の話をしてくれるのだろう。そんな軽い気持ちで通話に応じたところ、思わぬことを聞かされて靴を脱ぎかけていた手を止めた。
「どういうこと? 由奈は大丈夫なの? いったい、なにがあったの?」
一拍後に我に返り、彼を質問攻めにする。
由奈は私の三歳下の妹だ。二十三歳の彼女は現在、旅館の支配人である祖父と女将の祖母の下で若女将として仕事を学んでいる。
「依都、落ち着けって」
大和は高校を卒業してすぐに、京都の割烹料理屋で修行を始めた。その後、他店に数年勤めている。
一年半ほど前に地元に戻ってからは、糸貫庵の料理人のひとりとして働き始めた。
旅館に長く勤めるほかの従業員によれば、大和は相当優秀らしい。そんな彼の就職先がうちでいいのかと本人にこっそり尋ねたところ、『糸貫庵で働くために経験を積んだんだ』と迷いなく返してきた。
十月も下旬になり、朝晩は一気に肌寒くなってきた。仕事を終えて駅に向かう歩調は、自然と速くなる。人に溢れた都会は歩きづらさは、関東の片田舎から上京して四年以上が経つのに慣れる気がしない。
一回の乗り換えを挟んだ後に自宅の最寄り駅に着き、歩くこと数分。ひとり暮らしのマンションが見えてくると、無性にほっとする。
玄関の鍵を開けて中に入り、灯りをつけたタイミングでスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
電話をかけてきたのは、幼馴染の西脇大和だ。
『そうなんだよ』
折に触れてなにかと連絡をくれる彼のこと。いつものように私の実家の旅館や、離れて暮らす家族の話をしてくれるのだろう。そんな軽い気持ちで通話に応じたところ、思わぬことを聞かされて靴を脱ぎかけていた手を止めた。
「どういうこと? 由奈は大丈夫なの? いったい、なにがあったの?」
一拍後に我に返り、彼を質問攻めにする。
由奈は私の三歳下の妹だ。二十三歳の彼女は現在、旅館の支配人である祖父と女将の祖母の下で若女将として仕事を学んでいる。
「依都、落ち着けって」
大和は高校を卒業してすぐに、京都の割烹料理屋で修行を始めた。その後、他店に数年勤めている。
一年半ほど前に地元に戻ってからは、糸貫庵の料理人のひとりとして働き始めた。
旅館に長く勤めるほかの従業員によれば、大和は相当優秀らしい。そんな彼の就職先がうちでいいのかと本人にこっそり尋ねたところ、『糸貫庵で働くために経験を積んだんだ』と迷いなく返してきた。