甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
第3章 契約結婚



 あの夜、嘉山さんから突きつけられた提案は、私の心の中で嵐のように渦を巻いていた。


「借金を肩代わりする。その代わり、俺の妻になれ」

 
 ──その言葉は、まるで重い鎖のように私の心を縛りつけ、逃げ場を奪った。

 断る勇気があれば、余裕があればどんなに楽だっただろう。
 祖母の教えを胸に、「心から愛する人と生きなさい」と笑顔で語っていたあの声を守れたら、どんなに良かっただろう。

 でも、現実はあまりにも残酷で、猶予なんて与えてはくれなかった。
 銀行からの最後通告。あと三か月という期限。赤字に塗れた帳簿。疲れ果てた父の顔。
 そして、【みやび】とその味醂を守りたいという、胸を焦がすような願い。

 どれだけ抗おうとしても、選択肢は一つしかなかった。



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