甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
第4章 冷たい旦那様
結婚してから数日が過ぎた。
嘉山さんとの新生活は、想像していたよりもはるかに静かで、どこか冷たく感じられるものだった。広大な高層マンションの中で、私たちは同じ屋根の下に暮らしているはずなのに彼と顔を合わせるのは一日のうちにほんの数分。
朝は私が起きるよりも早く家を出て、夜は私が寝静まる頃に帰宅する。食事の時間さえ、ほとんど重なることがなかった。
この家には、温もりが欠けている。
【みやび】の蔵に満ちていた、味醂の甘い香りや職人たちの笑い声、祖母の優しい手触りとはあまりにも違う。ガラス張りの窓から見える東京の夜景は美しく、冷たく輝くが、私の心には届かない。
まるで、別の世界に迷い込んだような感覚が、胸の奥でじわじわと広がっていく。
──契約結婚だから。
彼にとって、私は「妻」ではなく、ただの「契約の相手」に過ぎないのだろう。必要以上に関わらないのが、彼にとっては当然のことなのかもしれない。
それでも、胸の奥に小さな寂しさが芽生え、静かに根を張っていくのを感じていた。