甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
第5章 すれ違い
あの夜の光景は、今も鮮やかに私の目に焼きついている。
キッチンでエプロンを身にまとい、【みやび】の味醂を使って料理をする周寧の姿。冷たく厳しい言葉ばかりを投げかけてくる大富豪だと思っていた彼が、実は料理を愛し、私の家の味醂を大切に思ってくれていたなんて。
あの瞬間、ほんの少し、胸が温かくなった。
この人となら、形だけの契約結婚でも、どこかで心が通じ合えるかもしれない。
そんな小さな希望が、凍てついた私の心にそっと芽生えたのだ。
……だが、日常はそんな甘い幻想を許してはくれなかった。
彼との新生活は、驚くほど静かで、どこか冷え冷えとしたものだった。