甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
第2章 大富豪からの提案
「……借金の件、俺が肩代わりしてやろう。その代わり──俺の妻になれ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
思考が凍りつき、時間が止まったかのように感じられた。目の前の男、嘉山周寧の声は低く、まるで蔵の静寂を切り裂くように響いた。冗談にしてはあまりにも現実味があり、現実だと受け止めるにはあまりにも突飛だった。私の心臓は激しく鼓動し、胸の奥で何かが軋むような感覚が広がる。
「……え?」
情けない声が、喉から漏れた。自分の声とは思えないほど弱々しく、震えていた。
目の前の男は、冷静で揺るぎない眼差しで私を見下ろしている。黒いコートの裾が、蔵の薄暗い明かりに揺れ、彼の存在感を一層際立たせていた。
彼の名は、嘉山周寧。
若くして嘉山財閥を率いる御曹司。投資、不動産、IT、医療──あらゆる分野で巨額の利益を生み出し、経済誌やニュースで“若き獅子”と称される人物だ。テレビや雑誌の写真でその姿を見たことはあったが、実際に目の前に立つ彼は、写真では伝わらない圧倒的なオーラを放っていた。