長すぎた春に、別れを告げたら
しばらく俺のマンションで暮らしませんか?
あれから十日。

治久から毎日のように電話がかかってきて、頻繁にメッセージが届いている。

私がほかの人と付き合うことになったと思っているはずなのに、どうしてあきらめてくれないのだろう。

治久が今なにを考えているのかわからず、もやもやした。

「聞いて、萌歌。相良さんって訪問日にうちの監査チームとランチに行くでしょ? 来月のランチに、私も混ぜてもらえることになったの! お近づきになれるチャンス!」

希帆さんが満面の笑みを浮かべてフリーアドレスデスクにやって来た。

十日前の相良さんとの出来事は、誰にも話していない。

彼には彼女がいるみたいだと言ったら、きっとがっかりするだろう。

「そうなんですね」

「希帆さん、いいなー」

私の隣で雫ちゃんが希帆さんをうらやましがる。

「雫ちゃんも参加する?」

「いいんですか?」

「もちろん。萌歌はどうする?」

希帆さんに尋ねられて首を横に振る。

「私は遠慮しておきます」

「萌歌は相良さんに傘を貸して一歩リードしてるのにもったいないなあ。今の時代、女にも積極性が必要よ」
< 21 / 54 >

この作品をシェア

pagetop