エナはマーメイドの仕立屋さん~はじめてのお仕事はプリンセスのドレス~

「ただいまー」

 エナはレクシーとおばあちゃんのお店へ戻りました。
 船のとびらを開けると、おばあちゃんがほっとしたような顔でエナたちを見ました。
 時間がかかっていたので、おばあちゃんもエナたちを心配していたようです。

「おかえり、よさそうな貝殻は見つかった?」
「うん、おばあちゃんがわたしにくれた貝殻に似た貝殻を見つけてきたの!」

 エナははしゃぎながらおばあちゃんに虹色の巻き貝を見せました。
 つやつやで、傾けるといろいろな色に見える巻き貝です。

「これは立派だね。これなら、よい魔法がかかりそうだ」

 おばあちゃんもうれしそうに笑いました。
 
「さて、じゃあ、魔法をかけよう」

 作業台から立ち上がって、おばあちゃんはエナがつくったドレスの前に泳いでいきました。
 そして、貝殻を持ったエナの手をドレスの胸元に持っていきます。

「エナ、おばあちゃんの言葉を繰り返して」
「う、うん、わかった」

 エナは緊張して言いました。
 魔法を使うのははじめてです。
 本当にできるのか心配だったのです。
 それでも、エナは心を決めた目でおばあちゃんを見ました。
 
「光れ貝殻」

 おばあちゃんが静かに言います。

「光れ貝殻」

 エナが繰り返すと貝殻が虹色の光でキラキラと輝き出しました。

「泡よ震えろ」
「泡よ震えろ」

 今度はぶくぶくと貝殻から小さな泡がたくさん出てきて、エナの手から勝手に離れました。
 あ、という顔でエナは貝殻を見つめます。

「貝殻と泡の導きにより、このドレスが勇気の出るドレスとなりますように」

 おばあちゃんは続けました。

「貝殻と泡の導きにより、このドレスが勇気の出るドレスとなりますように」

 すこし長くて難しいですが、エナは頭の中で上手に記憶して、ちゃんとおまじないの言葉を唱えました。
 すると、貝殻はすーっとはまるように自然とドレスの胸元にくっつきました。
 それは、まるで最初からそこにあったかのようにぴったりでした。

「これでドレスは完成。きっと、プリンセスの手助けをしてくれるはずだよ」
 
 おばあちゃんは優しい眼差しで言いました。

「これがわたしのはじめてのドレス……」

 はじめてつくったドレスが本当に完成したのだとエナは心を震わせました。
 たいへんだったこともあったので、うれしくて泣きそうになりました。
 でも、そんなことはしていられない、と思い出します。

「パーティーは明日よ、おばあちゃん! 早くナナにドレスを届けなくちゃ!」

 早く届けなければ、明日のパーティーに間に合いません。
 あわててエナはトルソーからドレスを取りました。
 そして、レクシーを抱っこして、お店のとびらに手をかけました。

「あ、エナ!」

 おばあちゃんはエナを止めようとしましたが、エナはお店を飛び出していってしまいました。
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