あなたは私のオランジェットの片割れ
01・不器用な王子様
「今日は何? チョコ掛けオレンジ? 美味しそう!」
「フランスのお菓子で、オランジェットっていうんですよ。たくさんできちゃったんで、良かったらどうぞ」
「嬉しい! いつもありがとね! 月曜日は葛原さんが週末に作ったお菓子持ってきてくれるの、実は楽しみにしてるんだ〜! 綺麗に包装もしてあってお店のみたいだし、ほんと美味しそう!」
会社の隣の席の先輩が、オランジェットを手にそうやって大声ではしゃぐから、他の人たちも集まって来た。箱いっぱいにあったオランジェットはあっという間に無くなってしまった。
朝の就業前。毎週月曜日は、週末に作ったお菓子を同じ課の人たちに配るのが葛原杏の習慣になっていた。お菓子を作るのは大好きだけど、ひとり暮らしだから食べきれないし、食べてくれる彼氏もいない。持て余したものをこうして持ってきている。
杏はオランジェットを入れてきた箱を片付けると、席に着いて仕事の準備を始めた。
『株式会社ほほえみ製菓』
スーパーとかでよく売っている、材料がだいたい入っていて、誰でも簡単に出来るお菓子キットを企画制作している小さな会社。杏はその総務課に所属している。総務課なんて立派な名前だけど、実態は社内の雑用を捌くなんでも課だ。
働き始めてもう四年。給料はそれ程たくさん貰えないけど、ブラックでもないし会社には特になんの不満もない。
なにより、お菓子が大好きだから、こうしてお菓子に携われる仕事は天職なのかもしれない。
お菓子は食べるのも好きだけど、作るのはもっと好きだった。作っているうちに夢中になりストレス発散になるし、出来上がったお菓子の甘い香りも大好きだし、食べても美味しい。これ以上の趣味はないのでは? と思う。
ただ、食べ過ぎには気をつけないといけないけど……
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