あなたは私のオランジェットの片割れ
03・熱に浮かされて

「葛原さん、大丈夫? 顔色が悪いよ」

 仕事中、隣の席の和田に声を掛けられた。えっ? と思ってパソコン画面を見ていた杏が顔を向けると、ギョッとしたふうに和田は更に言った。

「目の下、クマも凄いよ? 体調悪い? 大丈夫?」

「最近、よく眠れなくて……」

 夜、ひとりになるといろいろ考えてしまって、眠れない。

 あの土曜日から……。

 あれは、いつも杏に冗談を言ってからかってくる斗馬ではなかった。真剣な想いを、真っ直ぐにぶつけられた。だから、杏も真剣に考えようと思ったんだ。

 でも……考えれば考えるほど、分からなくなってしまった。

 斗馬のことは好きだ。だけどそれは、友達としての感情だと思う気持ちと、もしかして恋なのかもしれない、という気持ちが浮かんでは消える。

 自慢じゃないが、杏は、恋愛経験はほとんど無い。お菓子作りにかまけている間に、いろいろと出遅れてしまったのだ。いつの間にか周りの友達は、付き合ったり結婚したりしているというのに。

 今更こんな恋愛の初歩的な事を、友達に相談する事も出来ない。

 だから答えなんて出るはずもなく……。

 それに、斗馬の事を考えているのに、なぜか蒼士を思い出してしまう。それが思考の邪魔をして、どうしても考えがまとまらなかった。

 (こんな時にも意地悪してくるなんて……)

 全然関係ないのに蒼士が少し憎くい。

「――葛原さん、辛かったら早退して病院に行くか、早めのお昼休憩に行って休む? 課長には私が言っておくから」

「ありがとうございます……病院に行くほどではないですが、早めのお昼休憩に行かせてもらっていいですか?」

 とてもこれ以上、仕事をしている心境ではない。和田の提案はありがたかった。休憩室かどこかで少しでも仮眠が出来たら、少しは頭もスッキリするだろう。
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