あなたは私のオランジェットの片割れ
04・それは恋だった
 ふう、とため息が零れてしまった。

 会社のお昼休み。杏は、休憩室の窓沿いのテーブルでひとり、家から持って来たお弁当を広げていた。

 お弁当と言っても、残り物を入れて作ったケーク・サレ。あとはコンビニで買った、ミネラルウォーターだ。しかし、広げているだけであまり食欲がなくて食べてはいなかった。

 はぁ、とまた、ため息ばかりがはき出される。

 頬杖をつくと手が頬にある傷跡に触れた。だいぶ治ってきたけど、メイクで隠しても触るとわかってしまう。

 あの事件の後――警察に連行された平野麻友子は釈放されたが、蒼士の劇団から訴えられたそうだ。今は家族の管理の元、監視もついていると警察から聞いたので、もう危害を加えられる心配は無いだろうけど。

 蒼士の方は、熱愛報道の直後の事件だった事もあり、案の定翌日のワイドショー番組で騒がれてしまった。だけど、被害者という事もあり同情的な意見が多くて大事には至らなかったようだ。

 じゃあ、どうしてため息が出るのか。

 それは杏にもよくわからなかった。

 ふぅ、と今日何度目かのため息をつくと、同時にテーブルに置いていたスマホがピロンと音をたてた。メッセージが届いたらしい。スマホを手に取り見てみると、差出人は『須直斗馬』だった。

『久しぶり。蒼士先輩からいろいろ聞いた。大丈夫か? もし時間あるなら、会って話がしたい』

 斗馬とは、二回目のお菓子レッスンから会っていなかった。斗馬も忙しかったみたいだし。

 ……そういえば、告白されていたんだった。

 他のトラブルが山盛りだったから、それが遠い昔の出来事だったみたいに感じてしまう。
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