社長、社内恋愛は禁止のはずですが

第1章 恋愛禁止令の下で

社内恋愛禁止。

今の時代だからこそ当然なのかもしれないけれど、私はそのおかげで一つの恋を失った。


その日の会議で、社長――高峰直哉は、全社員を前に堂々と告げた。

「この頃、恋愛にかまけて仕事をしない社員がいる! 思い当たる者は気を引き締めろ。」

その一言に、会議室は静まり返った。誰も逆らえず、はい、と返事をするしかない。

「言っておくが、我が社は社内恋愛禁止だ! 恋愛する暇があるなら、仕事をしろ!」

ビクッと肩を震わせた社員の顔に苦笑が広がり、空気は張りつめる。

厳しくも冷徹なその言葉に、私の胸は痛んだ。

なぜなら、私が密かに想いを寄せる相手こそ、禁止令を口にした本人――高峰直哉だからだ。

大手企業グループの御曹司であり、若い頃から仕事一筋。

だから三十五歳になった今も独身を貫いているのだろう。

社内でも取引先でも畏怖される完璧な存在。

誰もが距離を置く高嶺の花。

けれど私は、その背中にどうしようもなく惹かれていた。
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