社長、社内恋愛は禁止のはずですが

第8章 選ばれたのは、私

謹慎期間、私は直哉さんの家で過ごしていた。

仕事に出られない分、せめてできることをしたいと思って、朝から掃除や洗濯を済ませる。

「これで全部終わりかな……」と一息ついた時、目に入ったのはハンガーに掛けられた直哉さんのワイシャツ。

ふと胸が熱くなる。

普段は颯爽と着こなしているそのシャツも、今は少しシワが寄っていた。

「アイロンでもかけようかな。」

私は自分の荷物からアイロンを取り出し、丁寧に熱を滑らせていく。

生地がピンと張るたび、まるで自分の気持ちまで整えられていくようだった。

——明日、このワイシャツに袖を通して出勤する直哉さん。

その姿を想像するだけで、胸がドキドキした。

彼の役に立てることが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

「直哉さん、これを着て頑張ってきてくださいね。」

私はそっとアイロンを置き、シャツの襟を整えた。

そこには、恋人として過ごす静かな幸福があった。
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