いきなりママになりました
少しずつ、ちょっとずつ
九月も中盤に差しかかった、ある金曜日の午後。莉乃は青葉と出店予定の店舗に車で向かっていた。
望から初めて〝りの〟と呼ばれてから一カ月が経過。望との距離は縮まりつつある。
あの日以降、保育園への送迎は莉乃も半分受け持つようになり、莉乃が迎えに行くと一目散に飛んでくるようになった。お気に入りの車に乗るのが目当てだとしても、うれしい進展である。
それに引き換え、青葉とはどうだろう。
距離を縮めたい気持ちはあるものの、先に〝夫婦〟という器だけが完成したせいか、中身をどう作っていったらいいのかわからずにいる。過去の恋愛の失敗が、莉乃を臆病にさせている部分もあるのかもしれない。
そもそも青葉は、莉乃と形ばかりでない夫婦になりたいと考えているだろうか。
莉乃にはとても優しく接してくれるが、それは望の母親として扱っているからにほかならない。となると望との関係性にだけ注力して、青葉とは交わらずにこのまま平行線でいるべきなのか。
青葉が運転する車の助手席で、うーんと腕を組む。
「なにか悩みごとでも?」
彼に不意に尋ねられ、いきなり現実に引き戻される。