いきなりママになりました
絶対に手離したくないもの


 都心から少し離れた、緑が静かに息づくエリア。ガラス張りのモダンなビルの一階に、莉乃は青葉と航希の三人で立っていた。

 陽光が差し込む広い空間は、以前検討していた山城不動産の物件とは異なるが、洗練された雰囲気と開放感がルナリアの自然派化粧品のコンセプトにぴったり合致しているように見える。

 莉乃はガラス越しに店内のレイアウトを想像しながら、胸の内で小さく高鳴る期待を抑えた。あの夜の山城との一件以来、ルナリア初の実店舗の夢は一時遠のいたかに思えたが、青葉がこうして新たな可能性を提示してくれたのだ。


 「ここが、青葉さんが見つけてきた物件なのね」


 莉乃は振り返り、隣に立つ青葉に感謝と好奇心が滲む口調で尋ねた。
 青葉は軽く頷き、いつもの落ち着いた微笑みを浮かべる。


 「ああ。山城の物件にこだわる必要はない。ここのオーナーは信頼できる人物だし条件も悪くない。ルナリアのブランドイメージを最大限に活かせる立地だと確信してる」

 彼の言葉は自信に満ち、莉乃の不安を静かに払拭する力を持っていた。マーケティング会社社長としての青葉の鋭い視点と、莉乃への深い理解が、この物件選びにも表れているようだった。
< 230 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop