いきなりママになりました
破れかぶれの逆プロポーズ
莉乃が暮らす高層マンションの窓に、雨粒が次第に勢いを増して打ちつける。ガラス越しに映る雨の軌跡は規則的なようでいて、そのひとつひとつが違う動きを見せる。
それはまるで仕事のよう。計画どおりに進んでいるようでいて、細部には予期せぬ変化がある。だが、その変化こそが流れを生み、停滞することなく前へと押しだしていく。
莉乃は紅茶の入ったカップの縁を指先でなぞりながら、窓の外の景色を見つめた。
背後には整理整頓された清潔なリビングやダイニングが広がる。それらはすべて家事代行サービスによるもの。莉乃は家事全般があまり得意ではない。
仕事に全身全霊を傾けてきたため、そこまで手が回らなかったのが理由ではあるが、自分がやらなくても済むものは極力やらないという合理的な考え方でもある。
そもそも仕事で疲れて帰ってきて、家事までやるなんて無理なのだ。
(私だってやろうと思えばできるのよ)
常々そう思ってはいるが。
市場調査は順調に進み、出店戦略の骨格はすでに形になりつつある。この三週間、航希や青葉と議論を重ね、次の一手が見えはじめた。まるでこの雨のように強まりながらも、一定のリズムを刻み絶えず流れ続ける。
六月も半ばを過ぎ、季節は梅雨を迎えていた。雨音は静かに部屋に響き、都会の夜にぼんやりとした輪郭を与える。