温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛

過去について考えよ

エントランスに停められた黒塗りの車に乗り込むと、圭吾はシートベルトを締めながら短く言った。

「向かうのは……東京湾だ」

「東京湾……?」
波瑠が目を瞬かせると、圭吾は横顔のまま口元に笑みを浮かべる。

「アフタヌーンティークルーズだ。誕生日には少し風変わりなほうがいい」

ほどなくして到着した港には、真っ白な大型クルーズ船が停泊していた。
タラップを上る途中、海風が頬を撫で、ワンピースの裾が揺れる。

船内に案内されると、用意されたテーブルには tierスタンドに並ぶ色鮮やかなケーキやサンドイッチ。
窓の外には、青くきらめく海と空。

「……すごい……」
思わず息を呑む波瑠を、圭吾が横目で見て低く囁く。

「気に入ったか?」

「はい……!」
笑顔を見せた瞬間、圭吾の瞳が深く細められた。

港に着いたとき、波瑠は思わず足を止めた。
停泊しているのは、真っ白に輝く大型クルーズ船。

「……まさか、この船……?」

驚きに目を見開く波瑠の横で、圭吾は淡々と答える。
「今日は君の誕生日だ。誰かに邪魔をされるのは、好ましくない」

「……貸し切り、ってことですか?」
声が震える。

「そうだ。君のためだけに」

その言葉に胸が熱くなり、波瑠は言葉を失った。
冷たい冬の海風が吹き抜ける中、圭吾がコートを広げて彼女の肩にかける。

「寒いだろう。……行こう」

タラップを上がり、静まり返った船内へ足を踏み入れる。
案内されたラウンジの大きな窓の外には、冬の海と空。
テーブルには色鮮やかなスイーツとティーセットが並べられていた。

波瑠は胸の奥から溢れる感動に、思わず囁いた。
「……こんなの、夢みたいです」

圭吾は彼女の隣に腰を下ろし、ゆっくりと視線を向ける。
「夢ではない。現実だ。君のために用意した」

低く響くその声が、波瑠の心を完全に捕らえていた。
窓の外に広がる冬の東京湾。
静かな波と遠くにきらめく街並みを眺めながら、ティーカップを置いた圭吾がゆっくりと口を開いた。

「……波瑠。君のことをもっと知りたい」
低い声が、ティールームの静けさに響く。

「え……?」
波瑠は驚きに目を瞬かせる。

圭吾はまっすぐに視線を向けた。
「いろいろと聞いていいか?」

その真剣な眼差しに、胸の奥が熱くなる。
(……こんなふうに見つめられて、“知りたい”なんて言われたら……)

頬を赤く染めながら、波瑠は小さく頷いた。
「……はい」
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