温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
偶然と運命
グラスを傾けながら、ふと圭吾の視線が壁際に並んだ写真に止まった。
旅先の風景や家族の笑顔が飾られている中、一枚だけ、胸を射抜くような写真があった。
柏木夫妻、そして小学生くらいの少年。その隣に立つ若い女性――。
圭吾の呼吸が止まる。
その顔に、見覚えがあった。
忘れるはずがない。
――波瑠。
少し若い、柔らかな笑みを浮かべている。
家族と肩を並べるその姿は、圭吾の知らない一面を映していた。
グラスを持つ手に力が入り、音もなく氷が鳴る。
心臓が早鐘のように打ち、言葉が喉に詰まった。
どうして、ここに――。
圭吾は思わずグラスをテーブルに置き、壁に飾られた一枚を指さした。
「……その写真は……?」
由紀子が写真に目をやり、穏やかに微笑んだ。
「ああ、ずいぶん前の写真ですが、娘と息子と一緒に撮ったものなんです」
圭吾の眉がわずかに動く。
「……娘?」
「はい。波瑠っていうんです。こちらで暮らしたことはなくて、今も日本で暮らしています」
由紀子は懐かしそうに答えた。
「息子の颯太は本土で大学に通っているんですよ」
圭吾の胸が大きく波打つ。
――やはり、波瑠。
思わぬ形で繋がった事実に、言葉を失い、ただ写真を凝視した。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内されたダイニングテーブルには、魚料理を中心としたご馳走が並んでいた。
綾香の様子を確認してから、圭吾は席に着いた。
盃を交わすうちに、柏木とはすっかり意気投合する。
「あと、どれくらいいらっしゃるのですか?」
「三日です。それから仕事でオアフ島のほうへ移動します」
「そうですか。もしよろしければ、この島でまだご覧になっていないところをご案内しますよ」
「いいんですか?」
「ええ。なんだか松田さんとはご縁を感じるんです」
ほろ酔いの柏木が上機嫌に笑い、圭吾も思わず頬を緩めた。
二人は地図を広げ、行きたい場所を話し合った。
そのうちに綾香が目を覚まし、由紀子の運転でリゾートホテルへ送り届けられる。
ベッドに横たわりながら、圭吾は携帯を確認した。
――波瑠へのメッセージは、まだ未読のまま。
胸に苦さは残った。
それでも、柏木と波瑠のつながりを知れたことで、ほんのわずかに心が安らいでいく。
「……必ず、戻ったら」
呟いたまま、圭吾は静かに眠りへと落ちていった。
旅先の風景や家族の笑顔が飾られている中、一枚だけ、胸を射抜くような写真があった。
柏木夫妻、そして小学生くらいの少年。その隣に立つ若い女性――。
圭吾の呼吸が止まる。
その顔に、見覚えがあった。
忘れるはずがない。
――波瑠。
少し若い、柔らかな笑みを浮かべている。
家族と肩を並べるその姿は、圭吾の知らない一面を映していた。
グラスを持つ手に力が入り、音もなく氷が鳴る。
心臓が早鐘のように打ち、言葉が喉に詰まった。
どうして、ここに――。
圭吾は思わずグラスをテーブルに置き、壁に飾られた一枚を指さした。
「……その写真は……?」
由紀子が写真に目をやり、穏やかに微笑んだ。
「ああ、ずいぶん前の写真ですが、娘と息子と一緒に撮ったものなんです」
圭吾の眉がわずかに動く。
「……娘?」
「はい。波瑠っていうんです。こちらで暮らしたことはなくて、今も日本で暮らしています」
由紀子は懐かしそうに答えた。
「息子の颯太は本土で大学に通っているんですよ」
圭吾の胸が大きく波打つ。
――やはり、波瑠。
思わぬ形で繋がった事実に、言葉を失い、ただ写真を凝視した。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内されたダイニングテーブルには、魚料理を中心としたご馳走が並んでいた。
綾香の様子を確認してから、圭吾は席に着いた。
盃を交わすうちに、柏木とはすっかり意気投合する。
「あと、どれくらいいらっしゃるのですか?」
「三日です。それから仕事でオアフ島のほうへ移動します」
「そうですか。もしよろしければ、この島でまだご覧になっていないところをご案内しますよ」
「いいんですか?」
「ええ。なんだか松田さんとはご縁を感じるんです」
ほろ酔いの柏木が上機嫌に笑い、圭吾も思わず頬を緩めた。
二人は地図を広げ、行きたい場所を話し合った。
そのうちに綾香が目を覚まし、由紀子の運転でリゾートホテルへ送り届けられる。
ベッドに横たわりながら、圭吾は携帯を確認した。
――波瑠へのメッセージは、まだ未読のまま。
胸に苦さは残った。
それでも、柏木と波瑠のつながりを知れたことで、ほんのわずかに心が安らいでいく。
「……必ず、戻ったら」
呟いたまま、圭吾は静かに眠りへと落ちていった。