温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
新たなる希望
波瑠は、町の小さな産婦人科医院の待合室に座っていた。
白い壁、薬品の匂い、壁掛けのカレンダーの季節の花。
それらが妙に遠く感じられるほど、身体は重く、意識はぼんやりとしていた。
最近、だるさが抜けない。
吐き気に襲われることも多く、めまいで立っていられなくなる時もあった。
生理はもともと不順だったが、気づけばもうしばらく来ていない。
「……まさか」
胸の奥で小さくつぶやく。
「では、まずこちらで検査をお願いします」
紙コップを手渡され、波瑠は小さくうなずいた。
検査室から戻ると、看護師が微笑んで言った。
「陽性反応が出ていますね。念のため、超音波で確認しましょう」
診察台に横たわると、冷たいジェルが下腹部に塗られ、機械の先端が滑る。
心臓が早鐘のように打ち、鼓動の音が耳の奥にまで響いていた。
「はい、ここに映っていますよ」
医師の穏やかな声とともに、モニターに小さな影が浮かび上がった。
波瑠は目を凝らし、呼吸を忘れる。
「妊娠、されていますね」
はっきりと告げられた瞬間、視界が揺れた。
あまりの現実味に、涙がにじむ。
「……本当に、赤ちゃん……?」
医師は淡々と説明を続けながら、モニターを指で示した。
「小さな心臓が、もう動いていますよ」
だがすぐに、医師の声音が少しだけ慎重な響きを帯びた。
「ただ——落合さんは40代での初めてのご出産になります。お体にはより気をつけていただきたい」
波瑠は息をのんだ。
医師はカルテをめくりながら続ける。
「高血圧や糖尿病のリスクが少し高くなりますし、切迫早産の心配も出てきます。定期的に血圧や血糖を測り、体調の変化があればすぐに連絡してください」
診察を終え、待合室に戻ると窓の外には冬の光が差し込んでいた。
手帳を開き、予定日の8月28日の欄に小さく丸をつける。
その文字を見て、胸の奥から涙が溢れそうになった。
——圭吾さん。
あなたとの時間が、こんな形で未来に繋がっている。
頬に触れた涙を指先で拭いながら、波瑠はお腹に手を添え、深く息を吸った。
「大丈夫よ。必ず守るから」
白い壁、薬品の匂い、壁掛けのカレンダーの季節の花。
それらが妙に遠く感じられるほど、身体は重く、意識はぼんやりとしていた。
最近、だるさが抜けない。
吐き気に襲われることも多く、めまいで立っていられなくなる時もあった。
生理はもともと不順だったが、気づけばもうしばらく来ていない。
「……まさか」
胸の奥で小さくつぶやく。
「では、まずこちらで検査をお願いします」
紙コップを手渡され、波瑠は小さくうなずいた。
検査室から戻ると、看護師が微笑んで言った。
「陽性反応が出ていますね。念のため、超音波で確認しましょう」
診察台に横たわると、冷たいジェルが下腹部に塗られ、機械の先端が滑る。
心臓が早鐘のように打ち、鼓動の音が耳の奥にまで響いていた。
「はい、ここに映っていますよ」
医師の穏やかな声とともに、モニターに小さな影が浮かび上がった。
波瑠は目を凝らし、呼吸を忘れる。
「妊娠、されていますね」
はっきりと告げられた瞬間、視界が揺れた。
あまりの現実味に、涙がにじむ。
「……本当に、赤ちゃん……?」
医師は淡々と説明を続けながら、モニターを指で示した。
「小さな心臓が、もう動いていますよ」
だがすぐに、医師の声音が少しだけ慎重な響きを帯びた。
「ただ——落合さんは40代での初めてのご出産になります。お体にはより気をつけていただきたい」
波瑠は息をのんだ。
医師はカルテをめくりながら続ける。
「高血圧や糖尿病のリスクが少し高くなりますし、切迫早産の心配も出てきます。定期的に血圧や血糖を測り、体調の変化があればすぐに連絡してください」
診察を終え、待合室に戻ると窓の外には冬の光が差し込んでいた。
手帳を開き、予定日の8月28日の欄に小さく丸をつける。
その文字を見て、胸の奥から涙が溢れそうになった。
——圭吾さん。
あなたとの時間が、こんな形で未来に繋がっている。
頬に触れた涙を指先で拭いながら、波瑠はお腹に手を添え、深く息を吸った。
「大丈夫よ。必ず守るから」