皇帝になった幼馴染みの溺愛が止まりません

第3章 プロポーズ

翌日、私はどうしても足取りが重かった。

本当は、ヴィックの元になど行きたくなかった。

けれど──これも庭師の務め。避けるわけにはいかない。

「ヴィック。今日もバラを持ってきたよ。」

扉越しに声をかける。だが、中から返事はない。

よく耳を澄ませば、彼とイーヴが何やら話している。

私の声など届いていないようだった。

「ヴィック……」

再び呼びかけても、沈黙。

胸の奥に寂しさが募り、思わず決意を固める。

「ヴィック、入るわよ。」

カチャリと扉を開けると、二人の視線が一斉にこちらを向いた。

驚きに固まる彼らの表情に、私の心臓は高鳴る。

「こちらが声を掛けぬうちに無断で扉を開けるなど、あるまじき行為です。」

低く咎めるイーヴの声。

「……すみません、イーヴさん。」

素直に頭を下げながらも、胸はざわついていた。

ただ花を届けに来ただけなのに──まるで、許されざる場所に踏み込んでしまったかのようで。
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