財前夫妻は離婚できない
妻の心を取り戻す努力――side珀人
社長室のパソコンの調子が悪い。
先ほどから画面が固まって、マウスのホイールをいくら回しても画面がスクロールできないのだ。
長いこと固まっているせいで省電力モードに入った暗い画面に、無愛想な自分の顔が映っている。
妻の悠花にさえ愛情がないと誤解を与えるくらいだから、俺の表情筋はすっかり凝り固まっているのだろう。
本当はもっと、笑いかけてやりたいのに……。
彼女に離婚の意思を告げられてから、二週間。あの夜初めて夫婦で抱き合った時間は俺にとって幸せなものだったが、悠花の態度が軟化することはなかった。
俺の方が夜遅く帰ることが多いせいか、彼女はいつも先に休んでいる。会話をしたくないのではと思えてならなかった。
しかし、こうなってしまったのも自業自得。
悠花と結婚しているという状況に胡坐をかいて、苦手とする愛情表現を克服する努力を怠った自分が一番悪いのだ。
俺は高校時代から悠花が好きだったし、今は昔よりもずっと愛している。
心の中ではいくらでも叫べるのに、彼女本人を前にすると、そっけない態度を取ってしまう。自分でも、致命的な欠陥がある人間だと思う。
しかし、直そうと思って簡単に直すことができない。
原因はハッキリと断定できないが、おそらく幼い頃からの家庭環境が影響しているのだろう――。