財前夫妻は離婚できない
懐かしい思い出をなぞって

「それじゃ、このサンプルで行こう。西口さん、今月中にテストプレイできそう?」
「はい。完成のめどは立っています。テスターさんのスケジュールも確保済みです」
「よし。それじゃ、この企画に関しては一旦テスト待ちってことで。次だけど――あれ? 財前さん、ついてきてるかな?」

 真木さんが、私の顔の前で手のひらを振る。ハッと我に返った私は、すぐに頷いて彼と目を合わせた。

 現在、開発部のオフィスに一番近い会議室でミーティング中。

  真木さんを筆頭に、私と葵ちゃん、デザインやサウンド担当の各エンジニアを含めたチーム数名で進捗報告をしているところだった。

「すみません、ちょっとぼうっとしてしまって」
「ここまで来るのに苦労したもんね。次の案件は急ぎじゃないし、今日のところはこの辺にしておこう」
「賛成~」

 葵ちゃんが同意するとみんなも頷き、ミーティングはお開きになる。最初こそ真木さんを警戒していた葵ちゃんも、気軽に意見交換ができる上司だとわかってからは、とても仕事がやりやすそうだ。


 私も彼と仕事をするにあたり、特にマイナス面を感じたことはない。

 ……だからこそ、ふとした瞬間につい考えてしまうのだ。

 珀人さんに教えられた彼の過去の不祥事は、本当にあったことなのかって。

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