君と描く最後のページ
第14章 さよならのあとで
冬の朝、病室にはいつも通り白い光が差し込んでいた。
雪が窓の外で静かに舞い、世界を白く包み込む。
モニターのビープ音はいつもより少しだけ弱く、胸の奥で静かに響く。
わたしは目を閉じ、呼吸を整えようとするけれど、体は重く、胸の痛みが波のように押し寄せる。
傍らには陽翔くんが座り、手を握ってそっと額に触れている。
千景も肩を震わせながら、静かに手を握る。
悠斗お兄ちゃんは、ベッド脇で手紙を抱え、涙で紙を濡らしている。
わたしの意識はまだ遠く、世界は白い霧の中にあるけれど、みんなの温もりだけははっきりと感じる。
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心の中で小さく囁く。
(……ありがとう……みんな……大好き……)
声に出せなくても、思いは届く。
手のぬくもり、涙の温かさ、呼吸のリズム――すべてが心に染み渡る。
モニターの音が、ゆっくりと、でも確かに止まりに近づく。
胸の奥の痛みが波のように押し寄せ、わたしの体は静かに沈んでいく。
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陽翔くんの手がぎゅっと握り返される。
「……美桜……お願いだから、……笑って……」
声は震え、涙で視界が少しぼやける。
でも、彼の心の強さと愛情が、わたしの意識の奥に届く。
千景の肩越しに見える悠斗の涙、手紙、そして冬の光――
すべてが静かで、切なく、尊い瞬間として心に刻まれる。
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目の前の世界はだんだん白くなり、雪の光が溶け込むように消えていく。
でも、胸の奥に小さな光が残る。
それは――みんなと過ごした時間、手のぬくもり、声、笑顔の記憶。
最後まで普通の女の子として生きたいと思った願いの形。
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モニターが一瞬だけ沈黙し、静寂が病室を包む。
わたしはゆっくりと息を引き取り、心の中で最後の囁きを送る。
(……さよなら……でも、ずっと見守って……)
雪がまだ静かに舞う冬の校庭。
校舎の中に、緊張と動揺がゆっくりと広がっていた。
教室の扉が開き、先生が静かに入ってきた。
「……杉浦美桜さんが……本日、亡くなりました……」
その言葉に、空気が一瞬止まったように感じる。
友達の間でざわめきが起こる。
泣き出す子、顔を覆う子、言葉も出せずに固まる子。
誰もが信じられない思いを抱え、胸を押さえながら涙を流す。
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陽翔くんは教室の奥で立ち尽くす。
手はぎゅっと握りしめ、声も出せない。
心の中で、何度も美桜の名前を呼ぶ。
(……美桜……どうして……)
怒りでも悲しみでもなく、ただ失ったことの現実を受け止められない気持ち。
雪の舞う窓の外を見つめながら、呼吸を整えようとしても、胸の痛みは消えない。
美桜の笑顔、声、手のぬくもり――すべてが頭の中で鮮明に蘇る。
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千景は泣きながら教室の隅で机に顔を埋める。
美桜の優しい笑顔が、ふと思い出される。
「……なんで……なんで……」
涙が止まらず、声も震える。
でも、胸の奥では、美桜が最後までみんなを思いやったことを思い出し、少しだけ心が温かくなる。
友達も互いに肩を抱き合い、泣きながらも美桜の存在を共有する。
悲しみは深いけれど、確かに愛された記憶が残っている。
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陽翔くんは窓の外の雪をじっと見つめ、胸の奥で何かを決意する。
(……守れなかった……でも……これからは……)
心の中で、彼女の願いを胸に刻む。
最後まで普通の女の子として生きたい――その思いを、自分が引き継ぐと誓う瞬間だった。
校舎の中に差し込む冬の光、窓に当たる雪の反射、冷たい空気――
すべてが現実を鮮明にする中で、胸の痛みと切なさは、決して消えることはない。
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悠斗も校舎に駆けつけ、顔を覆いながら涙を流す。
「美桜……俺は……ちゃんと、伝える……お前の想いを……」
手紙を握りしめ、胸の奥で妹の存在を感じながら、悲しみを力に変えようとしている。
冬の校舎は静かで、教室のざわめきの中にも美桜の存在が残っているように感じられた。
切なさ、悲しみ、温かさ――すべてが交錯し、涙とともに胸に刻まれる。
冬の冷たい風が校庭を吹き抜ける。
雪はまだ白く舞い、世界を静かに包み込む。
病室での静かな別れから数日後、校舎には悲しみが重く垂れこめていた。
クラスメイトたちは、教室で涙をこらえながら席に座る。
誰もが美桜のことを思い出し、声を震わせ、涙を流す。
窓の外の雪は冷たく、光は白く反射して胸を締め付ける。
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陽翔くんは窓際に立ち、手を握りしめながら遠くを見つめる。
黒い瞳は潤み、胸の奥は痛みでいっぱいだ。
でも、彼の中には決意が芽生えていた。
(……守れなかった……でも……これからは……)
守れなかったもどかしさ、悔しさ、そして愛――
すべてを胸に刻み、彼は美桜の願いを引き継ぐ決意を固める。
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千景はクラスの隅で手を組み、目を閉じて祈る。
「美桜……安らかに……」
涙で頬を濡らしながらも、心の奥では美桜の笑顔が浮かぶ。
その笑顔は、悲しみの中で小さな光となり、胸を温める。
悠斗も教室に駆けつけ、手紙を胸に抱え、静かに涙を流す。
「妹の想い……絶対に伝える……忘れない……」
言葉は震え、涙が頬を伝うが、胸の奥には深い愛と守る意志があった。
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追悼集会では、先生や友達が順番に美桜への思いを語る。
笑顔や優しさ、日常の小さな出来事――
どれもが、彼女の存在の尊さを改めて感じさせる。
陽翔くんは胸に手を当て、心の中で名前を呼ぶ。
「美桜……ずっと、忘れない……」
涙が頬を伝い、声はかすれるけれど、心は確かに届く。
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窓の外には雪が舞い続け、白い光が校舎の中を柔らかく照らす。
教室の空気は静かで、悲しみと温かさが交錯する。
涙の温もり、手のぬくもり、友達の存在――
すべてが美桜の記憶として胸に刻まれる。
陽翔くんはそっと手紙を取り出し、深呼吸をする。
「……これからは、君の願いを胸に生きていく……」
切なさと悲しみを抱えながらも、未来に向かう決意の瞬間だった。
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冬の光、雪の音、静かな教室の中、
美桜の存在は確かにそこにあり、愛と希望の形で残っていた。
胸の奥で静かに囁く。
(……ありがとう……生きてくれて……)
涙と共に、切なさと温かさが混ざり合い、胸に刻まれる。