君と描く最後のページ
第6章 本当の声
放課後の教室。
 陽翔くんと二人、机に向かって宿題をしていた。
 教室の窓から差し込む夕陽はオレンジ色に染まり、長い影を落としている。

 手元のノートを覗き込みながら、ふと陽翔くんが呟いた。

「……その薬、さっき見たんだけど」

 その言葉に、わたしの心臓が跳ねた。
 慌ててノートの上に手を置き、平静を装う。

「えっ、な、なに?」
 声が少し震えたのを自分でも感じる。

 陽翔くんは、ぶっきらぼうに言う。
「いや……別に。気にすることないか」

 でも、その目は真剣で、何かを探ろうとしているようだった。



 帰り道、二人で校門を出る。
 肩が触れそうな距離で歩く。
 わたしは小さく息をつき、笑顔を作る。

「……今日は楽しかったね」
「……ああ」
 陽翔くんは少し照れたようにうなずく。
 沈黙の中にも、心地よい空気が流れる。

(……気づかれたかも。でも、まだ言わないで)

 わたしは心の中でつぶやき、普通の女の子として笑顔を作り続けた。



 家に帰ると、悠斗が静かに座っていた。

「学校はどうだった?」
「うん、楽しかったよ」
 笑顔で答えると、彼は黙ってうなずき、そっと手を握った。
 その温かさに、胸の奥が少し和らぐ。

(……お兄ちゃんだけは全部知ってる。だから安心できる)



 翌日、学校で陽翔くんと少し話す。
 教室の片隅で、宿題を一緒にやるだけの時間。
 でも、彼の目は時々薬や体調のことをちらりと見ている。

 わたしは気づかれないように、心の中で小さく呟く。

(……まだ秘密だよ)

 陽翔くんは知らないふりをしながら、そっと笑う。
 その笑顔に、わたしは少し心が軽くなる。



 放課後、ノートに今日のことを記す。

――陽翔くんが薬に気づいた
――でも知らないふりをしてくれた
――二人で宿題をして、少しだけ近づいた

 文字にすると、気持ちが整理される。
 でも現実は変わらない。秘密はまだ、誰にも言えない。

 窓の外の秋風がさらさらと揺れる。
 ノートの上に置いた手のひらが、少しだけ温かい。

(……少しずつ、わたしの時間が特別になっていく)
放課後、校庭の隅で陽翔くんと二人、並んでベンチに座っていた。
 秋の風が髪を揺らし、遠くで遊ぶクラスメイトの声が微かに聞こえる。

 わたしは小さく息をつき、心の奥でつぶやく。
(……今日も普通の時間が過ごせた。秘密はまだ、隠せてる)

 陽翔くんは無言で隣に座っていたが、時々ちらりとこちらを見ている。
 その視線に胸がぎゅっとなる。

「……美桜、さっきの薬のことだけど」
 低く、ぶっきらぼうに言う。

 わたしは慌てて笑顔を作る。
「え?ああ、うん……気にしないで」

 でも、胸の奥でドキドキが止まらない。
(……気づかれたかな。でも、まだ秘密だよ)



 二人で帰る道すがら、陽翔くんが少しずつ口を開いた。

「……でも、無理してる感じはする」
「そ、そんなことないよ」
 笑顔で答えるけれど、少し声が震えてしまう。

 陽翔くんは黙ったまま、でも少し距離を縮めて歩く。
 肩がほんの少し触れそうになる距離で、心臓が早鐘のように打つ。

(……こうして一緒にいるだけで、嬉しいんだ)



 家に帰ると、悠斗が静かに待っていた。

「学校はどうだった?」
「楽しかったよ」
 笑顔で答えると、彼は黙ってうなずき、そっと手を握る。
 その温かさに、胸の奥が少し落ち着く。

 夜、ベッドに横たわりながら、ノートを開く。
 今日あったことを書き込み、心の整理をする。

――陽翔くんが薬に気づいた
――でも知らないふりをしてくれた
――一緒に帰る距離が少しだけ近づいた

 文字にすると、少し前向きになれる。
 窓の外に吹く秋風がさらさらと音を立て、気持ちを落ち着けてくれる。



 その夜、わたしは小さくつぶやく。

(秘密を抱えたままでも、こうして普通に過ごせる時間が、こんなに大切なんだ)

 胸の奥で少しだけ温かさが広がる。
 陽翔くんも、悠斗も、千景ちゃんも――
 わたしを支えてくれる大切な存在だと実感する。

帰り道、陽翔くんと並んで歩く。
 校庭を抜ける風が、二人の髪をそっと揺らす。

「……美桜」
 突然、陽翔くんが立ち止まった。

「……今日も無理して笑ってないか?」
 ぶっきらぼうな口調だけど、その目は真剣だ。

 わたしは小さく息を吸い、笑顔で答える。
「大丈夫だよ」

(……まだ秘密は、守らなきゃ)
 胸の奥でそうつぶやき、肩の力を少し抜く。



 陽翔くんは黙って隣に立ち、知らないふりをしながら歩き続ける。
 その沈黙の中にある優しさが、わたしの心をじんわり温める。

(……こうして、知らないふりをしてくれるだけで、救われるんだ)

 手をすれ違わせそうな距離で歩きながら、自然と手を差し出す陽翔くん。
 わたしは一瞬迷ったけれど、そっと手を重ねる。
 その温かさに、胸の奥がぎゅっとなる。



 家に帰ると、悠斗が静かに座っていた。

「学校はどうだった?」
「楽しかったよ」
 笑顔で答えると、彼はそっと手を握り、無言でうなずく。
 その温もりだけで、今日一日の緊張が少しほぐれる。

 夜、ベッドに横たわり、ノートを開く。
 今日の出来事を文字にして、心を整理する。

――陽翔くんが秘密に気づいたかも
――でも知らないふりをしてくれた
――手を重ねた瞬間、心が少し温かくなった

 文字にすると、少し前向きになれる。
 窓の外に吹く秋風がさらさらと揺れ、気持ちを落ち着けてくれる。



 ベッドの中でそっとつぶやく。

(秘密を抱えたままでも、こうして普通に過ごせる時間が、こんなに大切なんだ)

 胸の奥で温かさが広がる。
 陽翔くんも、悠斗も、千景ちゃんも――
 わたしを支えてくれる大切な存在だと実感する。

 その夜、涙はまだ少し残っていたけれど、心は静かに満たされていた。
 秘密を抱えながらも、今日も少しずつ前に進めた気がした。
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