君と描く最後のページ
第8章 冬の始まり
 朝、窓の外を見ると、世界は真っ白だった。
 一晩で降り積もった雪が、街も木々も覆い尽くしている。

 手を窓ガラスに押し当てると、冷たさが指先に伝わる。
 心の奥が少しわくわくしながらも、胸の奥がぎゅっとする。

(……今日、陽翔くんと一緒に学校に忍び込むんだ)

 そんな思いで、制服を整えながらも心はそわそわしていた。



 校門の前で、陽翔くんが待っていた。
 黒い髪に雪が少し積もり、前髪が少しかかる瞳は澄んでいて、でも少し眠そう。

「……おはよう。準備はできてるか?」
 ぶっきらぼうに聞くけれど、その目には楽しそうな光がある。

「うん、準備万端だよ」
 わたしは少し照れながら答え、手袋をしっかりはめる。



 二人で歩く雪道。
 足元に新しい雪がふわりと舞い、踏むたびにキュッと音がする。
 冷たい空気に頬が赤く染まり、息が白く漂う。

「……誰も来ない時間に入るから、気をつけろよ」
 陽翔くんが小さな声で言う。

 わたしは小さく笑い、頷く。
 心臓が少し早くなるのを感じながら、二人で校舎の裏口へ向かう。



 裏口のドアは少しだけ開いていて、雪の匂いが校内に漂っていた。
 廊下に入ると、日常のざわめきはなく、静寂だけが広がる。
 二人の足音が雪の音と重なり、特別な時間の始まりを感じさせる。

「……わあ、静かだね」
 わたしがつぶやくと、陽翔くんは少し照れた笑みを見せる。

「……特別な日ってやつだな」

 その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、こんな瞬間を共有できる喜びに、心が少しほぐれる。



 教室の窓際に座り、外の雪景色を眺める。
 白く覆われた校庭、静かな冬の世界。
 陽翔くんがそっと手を伸ばし、わたしの手に触れる。

(……手のぬくもりだけで、こんなにも安心できるなんて)

 知らないふりをしてくれる陽翔くんの優しさが、胸の奥に深く染み渡る。



 しばらく二人で窓の外を眺めていると、時間が止まったように感じた。
 雪が舞う音、遠くで風が木々を揺らす音、そしてそばにある手の温もり。
 この静かな時間の中で、わたしは秘密を抱えながらも心を少しずつ開いていく。

図書室に忍び込む。
 雪が静かに降る音だけが、窓の外から聞こえる。
 二人で窓際に並び、外の白い世界を眺める。

「……ずっとここに居たいな」
 小さくつぶやくと、陽翔くんは少し顔を赤らめて笑った。

「……俺もだ」
 その言葉に胸がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、彼のそばにいることが心地よい。



 手を重ねる。
 冷たい空気の中、手のぬくもりが胸に広がる。
 陽翔くんは何も言わず、ただ寄り添ってくれる。
 その存在だけで、わたしは安心できた。

(……このまま、時間が止まればいいのに)



 窓の外の雪は舞い続ける。
 二人で過ごす静かな時間の中、自然に笑顔が増える。
 陽翔くんの優しさに触れながら、秘密を抱えたままでも心を委ねられることに、わたしは少しだけ救われる気がした。
図書室で少し休んだ後、二人で校庭に出る。
 雪はさらに深く積もり、校庭全体を真っ白に染めていた。
 冷たい空気の中、わたしは手袋の手を陽翔くんに差し出す。

「……手、冷たいだろ」
 ぶっきらぼうだけど心配そうに言う。
 わたしは小さく笑い、手を重ねる。
 その温もりに、胸の奥がぎゅっとなる。



 二人で雪の上を歩く。
 足跡は二人だけの道のようで、踏むたびにふわりと雪が舞う。
 白い世界の中で、陽翔くんの存在が特別に感じられる。

「……こうして二人で歩くのも、悪くないな」
 陽翔くんの言葉に、わたしは思わず笑顔になる。

(……秘密を抱えたままでも、こうしていられる幸せ)



 少し開けた場所で、二人で雪を蹴りながら遊ぶ。
 笑い声が雪の静寂に溶けて、二人だけの世界を作る。
 陽翔くんがそっと肩を貸してくれると、心の奥の緊張がほぐれる。

 ふと見上げると、雪が空から静かに舞い落ちていた。
 冷たい空気の中で、手のぬくもりと心の温かさが同時に胸に広がる。



 校庭の隅で座り込み、二人で雪景色を眺める。
 陽翔くんは黙って手を重ねてくれるだけ。
 その存在が、言葉以上に心を支えてくれる。

「……ずっと、こうしていられたらいいのに」
 わたしがつぶやくと、陽翔くんは少し照れながらも小さく笑う。

「……俺もだ」
 その声に、胸の奥がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えていることも、今は忘れてしまえそうだった。



 帰り道、二人は手をつないだまま歩く。
 雪の白さと静けさが、時間をゆっくりと流してくれる。
 心の奥に温かさと切なさが入り混じり、胸がぎゅっとなる。

 家に帰ると、悠斗がいつも通り温かい飲み物を用意して待っていた。
 手を差し伸べる彼の存在も、日常の中の小さな奇跡のように感じる。



 夜、ベッドに横たわり、ノートを開く。
 今日の出来事を書き込みながら、心を整理する。

――雪の校庭で陽翔くんと遊んだ
――二人だけの特別な時間
――手のぬくもりと心の温かさに包まれた

 文字にするたび、胸の奥の温かさが増していく。
 窓の外には雪が舞い続け、静かな夜を包み込む。



 その夜、そっとつぶやく。

(秘密を抱えたままでも、陽翔くんと一緒にいられる幸せは、何にも代えられない)

 胸の奥に広がる温かさと切なさが、わたしを少しずつ強くしてくれる。
 雪の冷たさを忘れるほど、手のぬくもりと心の温かさに包まれて眠りについた。
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