旦那様は秘書室の向こう側で ―社内極秘溺愛契約―

番外編 新婚旅行編

 新婚旅行——本来なら入籍直後に行くはずだったその計画は、公表や仕事の都合で半年以上も延びてしまった。
 そして今、私たちは南国の空港に降り立っている。
 透き通るような海と、空一面の青。
 見慣れない景色に心を奪われていると、隣から低い声がした。

「……そんなに海ばかり見ないで、俺を見ろ」

「えっ……だって、きれいだから」

「お前の方がきれいだ」

 真顔でそんなことを言うから、頬が熱くなる。
 颯真は私の腰に手を回し、空港ロビーを歩きながらも離そうとしない。



 宿泊先は、海沿いのヴィラ。
 部屋からそのままビーチへ出られる作りになっていて、テラスには二人用のデッキチェアが並んでいる。
 荷物を置くや否や、颯真がサングラスを外して私を見た。

「泳ぎに行くぞ」

「え、着替え——」

「貸し切りビーチだ。他に誰もいない。……遠慮する理由はない」

 結局、水着姿でビーチへ出ることになった。
 波打ち際まで行くと、颯真が手を取って引き寄せる。

「日焼けしたら困る。……ずっと俺だけが見ていたいからな」

「そんな理由……」

 呆れながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。



 夜はテラスでディナー。
 キャンドルの灯りと波の音が、非日常を演出している。
 ワイングラスを合わせた後、颯真が視線を逸らさずに言った。

「彩花。……この先、何十年経っても、俺の隣はお前の席だ」

「……はい」

 静かに頷くと、彼の唇が私の指先に触れた。
 波の音が遠くで響き続ける中、私はこの人の愛情に包まれながら、これからの人生を思い描いた。
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