旦那様は秘書室の向こう側で ―社内極秘溺愛契約―

番外編 新婚旅行編・颯真視点

 半年待たせた。
 あのとき、入籍したばかりの妻をすぐにでも連れ出したかったが、社内の事情も公表のタイミングも譲れなかった。
 だからこそ、この旅行は絶対に最高の時間にすると決めていた。

 南国の空港に降り立った瞬間、彼女は子供みたいに目を輝かせて海を見た。
 胸の奥がきゅっと痛む。
 ——その笑顔を、自分以外の誰かに向けることは許さない。

「……そんなに海ばかり見ないで、俺を見ろ」

 少し意地を込めて言うと、彼女は照れて視線を逸らした。
 その仕草がまた、たまらなく愛しい。



 ヴィラに着くと、荷物を置いてすぐに海へ出た。
 貸し切りのビーチを歩く彼女の背中は、波のきらめきよりもずっと眩しい。
 日差しに焼かれる肌を見て、思わず口をついて出た。

「日焼けしたら困る。……ずっと俺だけが見ていたいからな」

 本音だ。
 彼女は呆れたように笑ったが、その笑みの奥に嬉しさが隠れているのもわかる。



 夜。
 テラスでキャンドルの灯りに照らされた彼女は、普段以上に美しく見えた。
 グラスを合わせるとき、ふとこの先のことを口にしたくなった。

「この先、何十年経っても、俺の隣はお前の席だ」

 彼女は静かに頷いた。
 その仕草が胸に沁みて、思わず彼女の指先に口づけた。
 波の音が、二人だけの誓いを包み込んでくれる。

 ——この旅行も、この先の人生も。
 すべてを彼女と共に歩む。それが、俺の唯一の望みだ。
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