旦那様は秘書室の向こう側で ―社内極秘溺愛契約―
第3章 昼の顔と夜の顔
午後の会議は長引き、終業時刻を過ぎても私は資料の整理に追われていた。
颯真はまだ役員会議に出席中で、戻ってくる気配はない。
——こういう時の彼は、きっと冷たく鋭い目をしている。
昼間は、私を妻だとは決して思わせない距離感を守り抜く。
資料をすべて片付けて秘書課を出たのは、午後八時を回っていた。
タクシーで自宅マンションに帰り、玄関の鍵を開ける。
途端に、奥から足音が近づいてきた。
「おかえり」
声のトーンが昼間とはまるで違う。
柔らかく、低く、そして私だけを包み込む響き。
颯真はスーツのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくった姿で立っていた。
「会議、遅くまでだったんじゃないですか」
「お前が帰る時間に合わせて帰ってきた。……一人で夕飯、寂しいだろう?」
言いながら、キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。
テーブルには、私の好きな煮込みハンバーグと温かいポタージュ。
「……作ったんですか?」
「文句はないだろう」
「……はい」
席につくと、颯真は私の隣に腰を下ろし、自然にワインを注いでくれる。
昼間は指一本触れないくせに、夜になるとこんなに距離が近い。
「食べさせてやろうか?」
「自分で食べられます」
「そう言うな。……ほら、口開けろ」
フォークに刺した一口を差し出され、仕方なく口に含む。
——美味しい。
頬が緩みかけたのを見逃さず、彼が小さく笑った。
「やっぱり、俺が作ると機嫌がいいな」
「別に……」
「昼間は“常務”なんて呼びやがって。悔しいから、夜はもっと甘やかす」
そう言って、髪を撫で、額に軽く口づける。
熱がゆっくりと広がり、さっきまでの疲れが溶けていくようだった。
——昼の彼と夜の彼。
どちらも私の知っている、そして誰にも見せない“本当の夫”だ。
颯真はまだ役員会議に出席中で、戻ってくる気配はない。
——こういう時の彼は、きっと冷たく鋭い目をしている。
昼間は、私を妻だとは決して思わせない距離感を守り抜く。
資料をすべて片付けて秘書課を出たのは、午後八時を回っていた。
タクシーで自宅マンションに帰り、玄関の鍵を開ける。
途端に、奥から足音が近づいてきた。
「おかえり」
声のトーンが昼間とはまるで違う。
柔らかく、低く、そして私だけを包み込む響き。
颯真はスーツのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくった姿で立っていた。
「会議、遅くまでだったんじゃないですか」
「お前が帰る時間に合わせて帰ってきた。……一人で夕飯、寂しいだろう?」
言いながら、キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。
テーブルには、私の好きな煮込みハンバーグと温かいポタージュ。
「……作ったんですか?」
「文句はないだろう」
「……はい」
席につくと、颯真は私の隣に腰を下ろし、自然にワインを注いでくれる。
昼間は指一本触れないくせに、夜になるとこんなに距離が近い。
「食べさせてやろうか?」
「自分で食べられます」
「そう言うな。……ほら、口開けろ」
フォークに刺した一口を差し出され、仕方なく口に含む。
——美味しい。
頬が緩みかけたのを見逃さず、彼が小さく笑った。
「やっぱり、俺が作ると機嫌がいいな」
「別に……」
「昼間は“常務”なんて呼びやがって。悔しいから、夜はもっと甘やかす」
そう言って、髪を撫で、額に軽く口づける。
熱がゆっくりと広がり、さっきまでの疲れが溶けていくようだった。
——昼の彼と夜の彼。
どちらも私の知っている、そして誰にも見せない“本当の夫”だ。