旦那様は秘書室の向こう側で ―社内極秘溺愛契約―
第6章 秘密の境界線
金曜日の夕方。
社内は月末業務で慌ただしく、秘書課も来客応対や資料準備でてんやわんやだった。
私は常務室から頼まれた追加資料を抱え、急ぎ足で廊下を進む。
角を曲がった瞬間——
正面から颯真が歩いてきた。
周囲には役員クラスの男性が二人、一緒に歩いている。
咄嗟に会釈だけして通り過ぎようとすると、颯真が唐突に口を開いた。
「彩花、少し来い」
予想外の呼びかけに、同行していた役員たちが怪訝そうにこちらを見る。
私は慌てて「失礼します」と頭を下げ、颯真の後を追った。
連れてこられたのは、会議棟の奥にあるVIP応接室。
重い扉が閉まる音がして、ようやく二人きりになる。
「……ここで呼び止めるなんて、誰かに怪しまれます」
「怪しまれても構わない」
「えっ……?」
颯真はゆっくりとネクタイを緩め、ソファに腰を下ろす。
その目は昼間の冷徹な上司のものではなかった。
「本当はな……もう隠す必要なんてないと思ってる」
「じゃあ、どうして——」
「……まだ動かせない案件がある。俺だけの問題じゃない」
その言葉に、胸が締めつけられる。
私たちの関係を隠している理由——やはり、何か大きな事情があるのだ。
「心配するな。……時が来たら、全部話す」
そう言って、彼は私の手を取り、指先に軽く口づけた。
その仕草は、誰にも見せたことのない“夫”の顔そのもの。
「それまで……お前は俺のそばにいろ」
耳元で囁かれた声に、頷くしかなかった。
けれど——
この時はまだ、すぐそこまで迫っていた波乱を知る由もなかった。
社内は月末業務で慌ただしく、秘書課も来客応対や資料準備でてんやわんやだった。
私は常務室から頼まれた追加資料を抱え、急ぎ足で廊下を進む。
角を曲がった瞬間——
正面から颯真が歩いてきた。
周囲には役員クラスの男性が二人、一緒に歩いている。
咄嗟に会釈だけして通り過ぎようとすると、颯真が唐突に口を開いた。
「彩花、少し来い」
予想外の呼びかけに、同行していた役員たちが怪訝そうにこちらを見る。
私は慌てて「失礼します」と頭を下げ、颯真の後を追った。
連れてこられたのは、会議棟の奥にあるVIP応接室。
重い扉が閉まる音がして、ようやく二人きりになる。
「……ここで呼び止めるなんて、誰かに怪しまれます」
「怪しまれても構わない」
「えっ……?」
颯真はゆっくりとネクタイを緩め、ソファに腰を下ろす。
その目は昼間の冷徹な上司のものではなかった。
「本当はな……もう隠す必要なんてないと思ってる」
「じゃあ、どうして——」
「……まだ動かせない案件がある。俺だけの問題じゃない」
その言葉に、胸が締めつけられる。
私たちの関係を隠している理由——やはり、何か大きな事情があるのだ。
「心配するな。……時が来たら、全部話す」
そう言って、彼は私の手を取り、指先に軽く口づけた。
その仕草は、誰にも見せたことのない“夫”の顔そのもの。
「それまで……お前は俺のそばにいろ」
耳元で囁かれた声に、頷くしかなかった。
けれど——
この時はまだ、すぐそこまで迫っていた波乱を知る由もなかった。