旦那様は秘書室の向こう側で ―社内極秘溺愛契約―

第9章 告白の決意

 救出された翌朝。
 私は早めに出社して、机の上の書類を整えていた。
 颯真はまだ来ていないはず——そう思っていたのに、ふと顔を上げると、常務室の扉が静かに開く。

「おはようございます、常務」

 いつも通りの距離感で挨拶をする。
 しかし颯真は私の前まで来て、低い声で囁いた。

「今夜、話がある。必ず俺の部屋に来い」

 ただの業務連絡のように聞こえるが、その目の奥に強い決意が宿っていた。



 定時を過ぎ、秘書課の灯りが一つずつ消えていく。
 颯真の部屋をノックすると、「入れ」という声が返ってきた。

「……来ました」

 ドアを閉めた途端、彼は机から立ち上がり、私の前に歩み寄る。

「もう隠すのはやめる。公表する」

「え……?」

「昨日のことがあって、はっきりわかった。お前を隠して守るなんて不可能だ。むしろ、堂々と隣に立たせるべきだ」

 言葉が頭に届くまでに、少し時間がかかった。
 半年前、彼は「まだその時じゃない」と言った。
 それが——今、変わった。

「でも……反対する人も——」

「全員押し切る。俺はもう、お前を誰の影にも隠したくない」

 強い声。
 その中に、怒りと安堵と、そして迷いのない愛情が混ざっていた。

「社内パーティーで発表する。お前は俺の妻だと、全員の前で」

「……颯真さん、本当にいいんですか」

「いいも悪いもない。そう決めた」

 そして彼は私の手を取り、ゆっくりと唇を落とした。
 この半年で初めて、職場の机の上で——。

「覚悟しておけ。これからは、堂々と甘やかす」
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