運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
第八話 空から来たる使者
***


 夜明けの光が、ゆっくりとカーテンを染めていく。窓の外が白み始めても、セレナは机の前から動けずにいた。

 羊皮紙の上に、カーテンの隙間から漏れた淡い光が差し込む。そこに記されている言葉は、どれだけ読んでも闇のように重く、胸の奥をチクチクと突き刺す。

 ──エリアスの呪いを解くには、イザベラを殺さねばならぬ。

 アレクを呪いから守ると誓った。彼はあのとき、頼もしいな、と笑ってくれたのだったか。

 いつも不機嫌な顔をしているぐらい、アルナリア王国の治安を保つために何ができるか、そればかり考えている彼が、初めて気を許してくれたようにほほえんでくれた。

 今でも、なぜアレクが優しくしてくれるのかわからなくて戸惑うこともあるけれど、一緒にいて居心地がいいとか、ありのままの自分を見せても許してくれるところとか……、理屈では説明できない安らぎを感じられる相手なのは間違いがなかった。

 セレナはアレクを救いたかった。運命を受け入れている彼が、呪いから解放されて、華々しくアルナリアの王として生きていく姿を隣で見られるのなら、御堂星麗奈としての人生があっけなく終わってしまったことへの対価としても申し分ないと思えていたのに……。

 あくまでも、イザベラとして生き、イザベラとして死を待つ運命が自分には課せられているなんて、正直考えてもいなかった。

 外見だけイザベラで、中身はセレナだなんていう都合のいい人生は待っていなかったのだ。

 しかし、アレクを救うために、自分が二千年前に国を滅ぼそうとした災厄の魔女イザベラであることを受け入れる覚悟が、今ならできる気がしているのも事実だった。

 ようやく羊皮紙から目を離せたそのとき、ノックの音が二度鳴った。静かな朝の空気が、少しだけ張りつめる。
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