運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
第九話 消えない誓いの印



 天穹宮の回廊から望める景色は、雲ひとつない空そのものを閉じ込めたように澄んでいた。

 一国の王太子であるアレクさえ、ライナスに会うのは初めてのこと。今後、やすやすと来られない場所には間違いなく、セレナは浮き足立った。

 年代の想像すらつかない青白い光をまとう円柱を繁々と眺めていると、ライナスが扉の前で足を止める。

「少々、ここでお待ちください」

 彼は穏やかにほほえむと、ルーガとともに扉の中へと入っていく。

「オリオンさんは来てないですね……」

 振り返ったセレナが、それに気づいてひとりごとのようにつぶやくと、アレクが苦く笑う。

「普段は清々しいほどに図々しいが、さすがに今回ばかりは遠慮したんだろう」
「……罪がどうとか、言ってましたね?」
「そうだな。……セレナには、話しておこうか」

 アレクは少々悩む様子を見せたが、オリオンが司祭を目指して、十代で天穹宮へ昇ったことを話してくれた。

 アルナリアの司祭見習いは皆、魔力の才能がある者を貴族が推挙し、教皇の裁可を経て天穹宮へ修行に出る。伯爵家の生まれだったオリオンもまた、同じだった。

「オリオンは好奇心があり、優秀だった。教皇にもっとも信頼され、秘蔵書のある倉庫の管理も任された。しかし、その探究心があだとなったのだろう。あいつは、そこで禁断の書を見つけた」
「禁断の……って、もしかして魔物の力が宿ってるような?」
「察しがいいな。その通りだ。ルミナリアの時代より、もっとはるか昔から存在していた闇の魔力。その力を持つ魔物を封じた書物の封印を、オリオンは解いてしまったんだ」
「それで、どうなったんですか?」
「オリオンは闇に飲み込まれ、生死をさまよった。教皇猊下により、ふたたび魔物は封じられたが、オリオンの体内には闇の魔力が残されてしまった。あいつはもう、闇魔法しか使えない体になってしまったんだ」
「じゃあ……天穹聖域では魔力を使えなくなってしまったの?」
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