運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
第四話 闇魔法の使い手
***


 鳥のさえずりに耳をさらわれて、窓の方へ顔を向けると、優しい日差しに目を細めた。昨夜まで降り続いた雨は嘘のようにやみ、とても澄み切った青空が広がっている。

「それにしても、ひどい雨でしたね。順調だった治水工事は一時中断だそうです。夜中まで安全確認に追われ、騎士様たちはピリピリしたご様子だそうですよ」

 髪を結ってくれるエマが、世間話をするように話しかけてくる。セレナがヒヤリとしたなんてまったく気づく様子はない。

「アレクシス殿下ももちろん、ご立腹ですよね……」

 鏡に映るエマを見上げ、セレナは途方にくれてつぶやく。

 あのあと、アレクが視察に出かけたとは聞いたけれど、工事が中断されたとなれば、あの雨の原因は許しておかないはずで……。

 しかし、なぜかエマはパッと顔を明るくして、首を横に振った。

「そうでもないんですよ、セレナ様。北の山脈に現れた魔物が、雨とともに浄化するように消えてしまったのだとか。第三騎士団の騎士様たちは皆さんご無事で、王都へ向かって帰還中だそうです」
「消えた……んですか?」
「そのように兵士たちがうわさしておりました。ノーデルではいまだにしとしとと雨が降り、このまま数日続けば、川の水も元通りになるとか」
「では、もう心配はいらないんですね?」
「はい。殿下も安堵されておられるはずですよ」
「そうだといいけど……」

 アレクの機嫌がいい姿なんて想像できなくて、浮かない表情をしたとき、部屋の扉が叩かれた。

「準備はできたか?」

 アレクの声だ。彼は唐突にやってきて、一方的に要件を突きつけてくるが、今日は特にいい予感がしない。調査すると言っていたし、いよいよ、何らかの尋問が始まるのだろうか。

「準備って?」

 不安になって尋ねると、エマは手早く髪をリボンで結びながら答える。
< 65 / 177 >

この作品をシェア

pagetop