運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
第五話 鳥籠の刻印
***


 魔術師団長であるオリオンの執務室は、壁一面を覆う書架と、数えきれないほどの書物で埋め尽くされていた。

 机の上には、幾何学模様を描いた羊皮紙が散らばり、日差しを受けて鈍く光る水晶が並んでいる。その光はどこか冷たく、部屋全体に重々しい気配を漂わせている。

 そんな暗澹とした部屋で、セレナはオリオンと向かい合っていた。

「あなたは善良な魔女イザベラである……と仮定しましょう。では、善良ではないイザベラはどこにいると思いますか?」
「善良ではないイザベラ……ですか?」
「ええ。彼女は封印される前、ルミナリアで大暴れして、王家を国ごと……いや、大陸ごと滅ぼそうとしました。そこで勇者が立ち上がらなければ、ルミナリアは再起することなく滅んでいたでしょう。何か、ご記憶は?」

 そう言われても、と戸惑う。何かしらをひねり出そうと思いを巡らしてはみるが……。

「……まったく」
「でしょうね。あなたは悪どころか、善良な記憶すら持っていないようです。イザベラではないからか……はたまた」
「二千年も経ってるんですから、忘れてることもあると思います……」
「おやおや、イザベラではないと言い切ると思いましたが……否定しないのですね。やはり、あなたはイザベラなのでしょうねぇ。まあ、それも、あの方にお会いできればわかるでしょう」
「あの方……?」
「はい。あの方は……」

 オリオンが言いかけたときだった。重厚な扉が勢いよく叩かれる。

「誰です?」
「第一騎士団、テオドール・ラングレーです」
「おや、テオ殿。どうぞ、入りなさい」
「失礼します!」
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